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僕は自分に自信がない。
優柔不断で意気地なしな僕は、今まで何も自分で選んで来なかった。近くの学校に通い、友達がいる部活動に入り、みんなが受験すると言うから慌てて勉強をしている。こんな自分を変えたいとは思うが、そのための行動を起こそうとは思わない。要は慣れてしまっているのだ。情けない自分に慣れてしまっている。
しかしそんな僕にも、自分を変えるチャンスがやってきた。それは幼馴染である夏美の存在だ。夏美はここまで、僕と同じコースを歩んでいる(と思っていた)。僕と同じ近くの学校に通い、同じように受験勉強をしている。幼馴染という関係性を所有しているだけでも、お互いの中の重要な役割を担うことができるが、僕はそれに加えてある種「同志」のような感情を夏美に抱いていた。とは言っても志のない同志ということになってしまうのだが。
そんな夏美から、ある日突然報告を受けた。
「私ね、将来の夢があってね、東京の大学行くことにしたんだよね。だからここにいるのもあと数か月なんだ」
快活に話す夏美の姿を見ると、もうさまざまな覚悟が決まっているようだった。知らぬ間に彼女は選び取っていたのだ。決断していたのだ。夏美が遠くに行ってしまう悲しみと、同志と思っていた人物がそうではなかったことに対する驚きが同時に押し寄せ、僕は言葉を返すことができなかった。
「なに?ショックなの?かわいいね」
夏美はいつもの調子で話しかけてくるが、いつの間にか大人になっていた。いや、気づいていなかっただけでずっと前から僕とは違っていたのかもしれない。
その場をなんとかやり過ごしたその日の夜、僕は初めて大いに悩み、大きな決断をした。この悲しみと驚きの感情を整理すると、きっと僕は夏美が好きで、そして憧れている。この感情に応えるために、次の日夏美を呼び出した。
「どうしたの? 話したいことがあるって。放課後に体育館で二人きりって、まさか」
夏美はまたいつもの調子だ。察しがいいというか、言わないでほしいことを言うというか。そんな所もと言いたいところだが、今回は僕の最大の選択だから、突き通さなければいけない。僕は慌てて遮った。
「あのさ、もしこのシュートが決まったら、告白してもいい?」
「マンガとかで見たことあるやつだ! ん?でも待って、告白まででいいの? シュート決めるなんてすごい事なんだから付き合ってくださいまで言えばいいのに」
また痛いところを突かれた。
「返事まで指定する自信がなくて…」
「何それかわいいね」
せっかく雰囲気も作ったのに、僕も夏美も思わず吹き出してしまった。初めて自分で選んだことにしては、少し大きすぎたのかもしれない。
「じゃあさ、もしそのシュートが外れたら、私と付き合ってください!」
「え、それ、、、どういう意味?」
「やっぱりかわいいね君は」
シュートは外れ僕たちは付き合うことになった。どこまでが自分の選択したことかよく分からなくなっているが、それでも僕は一歩成長できた。一歩夏美に近づくことができた。
僕は自分に自信がない。でも、夏美と幸せになれる自信が湧いてきた。
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