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夜。戸を叩くものがあった。そろそろ助けが来てもいいころだ。マースは、恐る恐る答えた。
「どなた、ですか?」
待てども返事がない。扉を薄く開けてみると、そこに居たのは思わぬ人物だった。
「……ダ、ダズ神父!」
「新しくやって来た司祭というのは、君だったのか。マース神父」
「は、はい。でも、どうして? てっきり、あなたは……いや、よくぞご無事で。……今までどこへ? そ、それよりも、この村では殺人が起こっています! 恐ろしい村です。と、共に脱出しましょう」
ダズは、ため息をついた。
「君、守秘義務を破ったね。今も、十日前も。罰を与えなければ」
そして、袖口から取り出した手紙をひらひらと見せた。それはマースが本部に宛てたものだった。
「あ……か、彼らが手にかけたのはいったい……」
「ああ。告白しよう。あれは誰でもない。新しい司祭様がどうか逃げ出してくれますようにと、我々が仕立てた作り話だ。ーー君はなぜ、逃げずにいた?」
あごに手をあてるダズは、まるでマースの見知らぬ者のような相貌をしていた。
「まあいい。私はね、自らが救世主となり、世を正すことにしたんだ。君も感じるだろう? 司祭などしていると、人々がいかに罪深いかを。なぜ人は罪を犯す? 制約があるからだ。私は気が付いた。本当に人々を救う方法を。制約など失くしてしまえばいいのだよ」
「そ、そんな」
「何をしたっていい。とはいっても、時には罪悪を感じることもあるだろう。そのために私が君臨する。私は罪を告白し懺悔する者をすべて赦そう! 人々を罪から救うのだ」
「ダズ神父……」
「まずは手始めに自分の赴任先を世のしがらみから解放するつもりだったのに。まさか、君が派遣されてくるとは。ーーせっかくだが、この村には教会の司祭はいらない」
ダズの後ろから現れた数人の男がマースを取り囲む。
綱職人、鷹匠、森番、粉ひき――。
見れば、皆、知った顔だった。
了
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