悪意を、飲み干す。

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   「時に、蓮太郎さん。爆弾魔って本当に存在すると思いますか?」  向かい側に座った、50代前半らしい男から、いきなりこう言われた。  「…え?」  そもそもなぜこの男が俺の名前を知っているのか。奇妙で仕方ない。黒スーツに身を包み、サングラスをかけて目元を隠して、さらに胡散臭さを際立たせてる。水が入ったグラスを持つ手はシミだらけで、彼の不健康さがすぐに分かった。彼は黄ばんだ歯をギラギラと見せながら言った。  「なんで自分の名前を知っているのか…ですか。なんでだと思います?」  言葉が出ない。不気味だ。この男からは何かを感じる。勘がそう告げている。  「なんでも知ってますよー。あなたのこと。遠上 蓮太郎。24歳。矢神大学在学。心理学を勉強してたらしいですね…将来の夢はカウンセラーですか?…趣味は読書。好きな物はコーヒーっと。もっと喋りますか?」  唖然、その言葉に尽きる。俺の個人情報暴露大会もそうだが、この男は…ただ無邪気なのだ。悪意はあるが、邪悪ではない。  「そろそろ、本題に入りたそうな顔してますね、その前に…」    彼はテーブルの端においてあったメニューを取った。    「なにか頼んでいいですか?もうお腹が空いてしまって。」  彼はメニューを、おもちゃを見つけた子供のように、輝いた目で見つめた。  何だこいつ。ただそれだけだった。  でも知らなかった。俺はこいつに、  破滅させられるということに。  
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