魔女裁判

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新学期が始まるからと注意はしたが、いざ行為が始まると興奮してしまうのか薄くなった部分からまた唇を押し当てられ、馬鹿になった頭ではもう反抗する気力も失われてしまった。 体育の時間はどうしてくれるつもりだ。 体育祭だってあると言うのに、動けばそれなりに見えてしまうかもしれない。 「あ、あれかぁ!」 俺分かっちゃったぁ、と胸を張る相良はふふっと眼を細める。 どうやらまだ間違い探しは続行していたらしい。 「髪だ、伸びたんだなっ」 「あ、あぁ、そうかも…」 確かに夏休みに入る前から一度も切っていなかったのを思い出し、影尾は前髪を摘まみ上げる。 いつも短めにカットしてもらっている為に少々甘んじていたのかもしれない。 (今度の日曜日にでも切りにいかねーとなあ…) 夏休みの間に切っておくべきだったと息を吐く。 小学生の頃もこうやって全体的に伸ばして眼を隠していたのを思い出す。 でも、切る暇が無かったのだから仕方ない。夏休みと言う長期休暇の中、何故暇が無かったのかと聞かれたら答え辛い事山の如しだが、まさかほぼ毎日新婚さん生活を送っていたとか、 (笑えねー…) 第三者から見ればただのリアルエロゲだとか言われそうだ。 だが、この夏休み。 影尾にとって大きな進歩があったのも自覚はしている。 御上に対しての感情がはっきりと形付いたのが一番大きいだろう。あまり人間に対して信頼と言う言葉はほぼほぼ無かった影尾にとってこれはかなり革命的な事。 相良とは違う、恋愛的な意味合いで大きくなった感情は結構重い。 もう一つは自分の気持ちを言えるようになった事だ。 するっと出てくる訳では無いが、それでもきちんと言葉として出せるように努力した影尾は最近では御上に対してああして欲しい、こうして欲しいと伝えている。 前にも『誰に遠慮してんの?』と言われた事があり、そうだよな、と今ようやく心から納得出来たと言うのもあるのかもしれない。 尤もそれは御上が全て受け入れてくれると言うのが前提にあり、甘えれるからなのだろうけれど。 (あの人結構スパダリなんだよなー…) 御上の事も徐々に理解もできて来た。 キスが好きなのか、何かあればすぐにちゅっと唇を合わせてくる。唇だけで無く、頬や額にも。これがまたスマート過ぎて培ってきた経験を感じてしまうのが複雑だがこんな事で嫉妬していたら進むものも進まない。 それにもういいと言いたくなるくらいに世話を焼いてくれる彼に文句が言えるはずも無い。 大体こんな顔は普通、横這い平均値。身長は平均以上、華奢の欠片も無い、秀でている何かも皆無、平凡中の平凡の男と付き合ってくれている辺り、もしかしたら聖人なのではとすら思ってしまう。 きっとこの先男女含めても御上のような人間と付き合えるなんて奇跡は無いだろう。 ただ、ひとつだけ言いたい事があるとすれば、 (あの人のセックスは…しつこい…) 比べる相手も居ないのだから、絶対そうだとは言い難いが普通声も出ない、出てくるのは涙と鼻水だけ、ちなみに精液も打ち止めなんじゃね?ってなっている状態の相手に遠慮情け容赦無く腰を打ちつける、その様子を煌々とした笑みを浮かべ満足そうに見下ろすとか、しつこい以外の言葉があるだろうか。 加えて、影尾自身これ以上は入らないと思っていた場所を抜けて体内から聞いた事も無いような音が脳内に届いた時は流石に息も止まった。なのにそれが癖になったのか、毎度毎度そこを狙うようになった御上の執着ぶりはえげつない。 (…気持ち良い、んだけど、) だが無理矢理引っ張り上げられたような過ぎた快感は天井知らずで落ちどころが分からないと言うか、終わりが見えなくて怖いとも思ってしまうのだ。 どんな醜態を晒しているのだろうかだとか、気を遣えない声はどれだけ汚いか、考えただけで恐ろしい。 正直、今更嫌われたくはない。 幻滅されるのも嫌だし、失望なんてされたらしばらくは立ち直れない事間違い無しだ。 はーっと重い溜め息が出てしまうのも、ここが悩みどころとして大きい。 相良も帰って来た、しばらくは何事も無く過ごせるだろうか。 (…まぁ、流石に、な) 「あ、そう言えばさ。今度俺等部活で試合があるんだけどさ」 「…、あ、試合…サッカーか」 パンも食べ終え、コーヒー牛乳を一気に吸い上げた相良がニコッと笑う。 安心する笑顔、今の影尾にはやたらと眩しく見えて眼が潰れてしまいそうだ。 「そうっ!他校の生徒と練習試合だけど一年も出してもらえるからさ、その、良かったら、つーか…」 「うん?」 「応援に来て、欲しいなー、とか、」 「応援?」 「無理そうなら、全然良いんだけどさっ!でも、その柊梧達も来てくれるし…影尾も来てくれたら嬉しいなー…みたい、な、」 「あー…」 休みの日に滅多に外に出たがらない影尾に気を遣っているのだろうが、それでも期待に満ちたキラキラとした眼が見上げてくる仕草は同じ男子高校生とは思えないくらいに可愛いと思える。 「…いつ?」 「へ、あっ、えっと、今度の日曜っ!十時からっ!第二グラウンド!」 ご丁寧に日時と場所までしっかりと教えてくれた相良に影尾もやれやれと肩を竦めつつ、ふっと口角を上げた。 「いいよ」 髪を切るのは、もう少先でもいい。
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