かぼちゃの馬車はあとで美味しく頂きました

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かぼちゃの馬車はあとで美味しく頂きました

リビングに通すなり、『はい、これ』と渡されたのは缶詰のチョコレートと缶コーヒー。 差し出してくれたのはピンク色が本日も鮮やかならば顔面も絶好調、御上だ。 「えーっと…何っすか…」 「チョコ好きなんじゃねーの?」 確かに嫌いではないが、何故にピンポイントでチョコなのだろうと首を捻りそうになるも、頂いた物は有難く受け取るタイプを貫く影尾は礼を言いつつ、頭を下げる。 缶コーヒーに至っては人数分入っている事から、この三人プラス影尾の分もある事に妙なくすぐったさを覚えた。 昨日と同じ位置、テーブルに缶コーヒーを置く。このチョコレートはどうしようと一瞬視線を彷徨わせたが、蓋を開けると取り敢えずそこへ。ソファに座ればまた美形に囲まれると言う贅沢な景色にごくりと鳴る影尾の喉は正直だ。 「早速だけどさぁ」 「はい…」 缶コーヒーのプルトップを開けて一口含む古賀は流石とでもいうべきか、こんな庶民的な飲み物でもハイブランドなお飲み物に見えるのだから世界の不平等さを改めて感じる。 「気付いてるだろうけど、相良がお前と親しくなりたいらしくてさ」 「…へぇ」 「何だよ、その反応は」 っしゃああああああああ!!!!!いえぇーーーーーーい!! くらいの空前絶後な雄叫びを期待されているのだろうか。だったら諦めて頂きたい。 薄く微笑みながらも小さく頬が痙攣しそうになるのを堪える影尾がそろりと眼を泳がせるとバチっと合う視線の先に、にこっと微笑む早水が居た。 優男風だが確かこの男弓道部だった筈。 「まぁまぁ、木澤にしてみれば行き成りの話だったんだよな」 ふふっと首を傾げて見せるが、忘れてはいない。昨日この男は『見る眼が無いねぇ』なんて言ってくれた事を。 「そう、っすね…」 「ほら、臨機応報とか苦手なタイプなんだって。木澤って」 ひとつの会話で一回はディスらないといけない呪いに掛かっていたりするのだろうか。 バレない程度に眉を潜める影尾だが、いちいち突っ込んでいては話も進まないだろう。 仕方ないと肩を竦めつつ、 「それで、だから何なんすか」 話の先を促せば、古賀がわざとらしい大きな溜め息を見せてくれる。あの溜め息をビニール袋に詰めて売り出せば、もしかして売れるのでは?なんて考えてしまうも、そもそも売る相手にすら話しかける事が出来ないと言う事実に増すのは切なさばかり。 「正直俺としては可愛い甥っ子だから、お前みたいなのとツルむのはどうかなとも思ってんだよ」 ――――そうでしょうね。 「俺等もさ、相良の事小さい頃から知ってるからやっぱ可愛いからさ」 早水の援護射撃がその後に続く言葉を嫌でも想像がつく。 「木澤って、うちの学校でも結構やべー奴じゃん」 ――――そう思われてるんでしょうね。 「やっぱ人の弱み握って回ってる奴って、どう考えても相良には釣り合わないっつーか、関わり合って欲しくないって思うだろ」 「はぁ…」 ――――やっぱり、な。 想像はしていたけれど、矢張り多少は虚しさと切なさが入り乱れる。思わず唇が尖りそうになるもそんな子供っぽい仕草等、今彼等に向けているキャラには似合わないだろう。 「けど、相良はちょっと違うっつーか。まぁ、アイツの話を聞いたらお前に憧れの対象を抱くには仕方ねぇと思う部分もある訳よ。なんつーの?中二病的な?本当可愛い…」 ぐびぐびとコーヒーを飲んでいく美形の姿は可愛い一人娘を嫁に出す前夜の父親の様な哀愁さ。 そして、空になった空き缶を勢いよくテーブルに置いた古賀はキッとその涼し気な眼を釣り上げると影尾へと向けた。 ひっ…と声を出さなかった自分を褒めてやりたい。 ドキドキと心拍数を上げる心臓を隠すも手汗が半端ない影尾はそっと部屋着のジャージにそれを擦り付ける中、 「で、だっ!仕方ないから木澤と親しくなるのを許そうと思ってる」 「――――は?」 古賀の言葉に流石にくるりと眼を動かした。 「お前がちょこちょこと色んな所から恨みを買ってるのも知ってるし、情報屋なんて疎遠されてるのも知ってる。けど、それは相良からしたらどうでもいいみたいなんだよねぇ」 早水もごくっとコーヒーを飲むと、苦笑いに似た笑みを浮かべやれやれと肩を竦めて見せる。 「カッコいいって思ったから、当時は礼も言えなかったけど今回はちゃんとしたいって」 「…………」 「アイツ、すげー素直で物分かりがいいんだけど、こう!って決めたら真っ直ぐ過ぎてさ」 可愛いだろ?って語尾みたいに聞いてくるのが昔ワイルドで売っていた芸人を思い出させるのでやめて欲しいが、いや、そこに喰いついても仕方が無い。 「――だから、どうしろ、と?」 先だ、その先を知りたい。 結果論だけを告げて欲しい。そろそろこの三人に囲まれた空気を一層、換気したくなってきた影尾の顔色は宜しくない。 だが、そんな影尾の事なんて知った事では無い、甥っ子である四堂しか目に入っていない古賀は訝し気に眉を潜めた。 「だから、言ってるだろ?お前と親しくなるのを認めるって」 「……」 「取り合えず、一緒に話す所から始めて、飯食うくらいならいいかな、って」 「……」 (いや、待って) 何でそんなに上から目線なの? 上からどころか、天界から下々の人間を見下ろしている風なイメージしかない。 何?神々の遊びか何か?
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