魔女裁判

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* 長期の休みが終わってしまったと言うガッカリ感と新学期が始まり毎日友人達と会えると言う楽しみ。 ゆったりと過ごしていた時間の流れで過ごしていた日々だった故、麻痺していたが学校生活が再開した事により忙しなく行動していけば、明らかに時が過ぎていたのだと現実を自覚する事となる。 夏休み、終了と言うものだ。 学校名物、何処へ行っただの、誰に会っただの、何をしただの、我先に語るクラスメイト達は皆一様に笑顔だ。 中には髪色、髪形を変えた、こんがりと焼けた、身長が一気に伸びた、痩せた、太ったと雰囲気も変わったらしい生徒達が居るも、興味が無ければ何ら此方に影響はない。 「おい、虎壱」 「ん?」 「お前夏休みの後半何処行ってたんだよ」 和風美人でも焼けた肌は似合う。むしろ少し色気を増していると先程こそこそと話している輩も頬を赤らめていたのを思い出す。 尤も、すぐに焼けやすく、そしてすぐに白くなると言う特異体質。その辺の女性からはいつも羨ましがられていたが、古賀本人としてはどうでもいいらしい。 「電話しても出ねーし、殆どメッセージだけの遣り取りだったじゃねーかよ」 「あー、まぁ色々とな」 曖昧な返事の御上に首を傾げながら椅子を引き寄せた御上はそこへと腰を下ろす。 御上の席は窓際で新鮮な空気が常にあるイメージ。そこから教室を眺めていた古賀はおもむろにその身体を低く身を縮ませた。 「あれか、新しい女のとこか?」 「……」 こそっと内緒話の様に小声になるのは何か気を遣っているのだろうがその真顔から感情が分かり辛い。甥っ子にはあんなに分かりやすいくらい感情豊かだと言うのに。 が、その真意はよくわかる。 結局のところ古賀の根本にあるのはただ一つだ。 「何でもいいけど、相良に悪い影響与えんなよ」 一番悪い影響を与えている奴が何か言っている。 ふっと笑ってしまったのは、どこまでも古賀は古賀だからだ。 相良は確かに昔から可愛らしい。 クルクルと変わる表情と裏表なんて無い、常に球体のような少年は生い立ちなんて関係ないと言わんばかりにいつも笑顔なのも人が惹かれる理由の一つなのだろう。 そんな相良を他人から見ればセコム、内側から見れば過保護を通り越して変態ストーカーの如く成長してしまった残念過ぎる美人は遠巻きに見ても気持ちが悪い。 と、思いつつも、ほんの少し。ほんの少しだけ、『そんな風な対象』が居る古賀を羨望の混じった気持ちで見ていたのは事実だ。 別に庇護する何かが欲しい訳では無いが、その対象に向かって思える強い気持ちを持っている事が羨ましかったのかもしれない。 相良は可愛らしいがそう言う対象にはならない。 ペットでもと考えるもどうも違う。 だったら矢張り彼女かな、と色々と付き合ってみるも、ただ人数と経験値が増えるだけでピンと来ない。 ーーー俺って意外とつまらない人間だったりする? それはそれで仕方ない。 切り替えは早い方だ。 長所としてもっと育てようかなんて思っていた御上だが、自然と口角が持ち上がる。 「何ニヤニヤしてんだよ、お前」 「別に。で?何か用だった訳?」 お前だけには訝しげな眼で見られたくないナンバーワンの名を欲しい侭に突き抜ける古賀へ、そう問うて御上は髪を掻き上げた。 「いや、普通に相良と出掛けたりしたからさ、お前もどうかなってお誘いだわ。俺の親切心?」 「あぁ、そう」 そんな事だろうとは思っていたが想像通りで面白味も無い。 「そんで結局お前何処で何してた訳?」 「んー…」 古賀の純粋な好奇心が見え隠れする黒々とした眼。 黒曜石のようにパキッとした力強さを感じるそれは彼とはだいぶ違う。 『あ、あの、先輩、ちょっとだ、け、で良いんですけど、何つーか、何て言うんだ…ぎゅ、って、いや、あ、ちが、抱き締め、て欲しい、な、どっ、あ〝で、…っ!』 舌噛んだっ、と口元を押さえるあの水分を含んだ眼。 あれは笑わずにはいられない。 ーーーそして、妙な達成感が半端ない。 「お前思い出し笑いしてんの?すけべだな」 「そりゃまーな」 ふふっと首を竦めて笑う御上に再び古賀から向けられる怪訝な視線。 周りのクラスメイト達からもどよめきに似たざわつきが聞こえるも、抱き締めた時にも弾みでまた舌を噛んだ影尾を思い出し、御上はまた笑った。 「影尾ってさぁ、何か雰囲気変わった?」 「…そ、う?」 「うん、えー何だろう、あ、言わないでなっ、当てるからっ」 上、下、右、左、斜めそれら。 至る角度から影尾をチェックする相良は久しぶりの再会もあり、テンション高く動きも中々の俊敏ぶり。 「髪色…変わってない…、痩せてもなさそうだし…太ってもないよなー…」 ぶつぶつと口元に指を当て考えるポーズを見せる友人に内心ヒヤッとしたのは言うまでも無い。 普通にこうして学校に出て来て食事をしているが、まだ残暑も残っていると言うのに影尾のワイシャツは首元までしっかりとボタンが閉められていたり、する。 それは何故か。 (大丈夫、だよな、見えてないよな…っ) 服で隠れる所の殆どに跡が付けられているから、と言う卑猥なアンサーがあるからだ。 首元、胸元は勿論のこと、脇腹、へそ周り、足の付け根だったりと。 最初の頃は気付かなかったが数日前に偶然鏡で見た自分の身体は一瞬病気にでもなったのかと疑ってしまった程だ。 そう言えば背中も凄い。確認の為スマホで撮った写真は速攻消去した。
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