かぼちゃの馬車はあとで美味しく頂きました

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大体何故に彼等から了承を得なければならないのか。 四堂を可愛がっているのは分かるけれど、こちらの意見は? 腕を組み眉間を押さたい衝動に駆られる。 普通に淡々としたキャラ設定で行こうかと思ったがシフトチェンジした方がいいのかもしれない。 「あのー…」 「何だよ。あ、言っとくけど相良と親しくするのは許すけど、俺等とも親しくなれるかもなんてことは思うなよ」 和風美形から放たれるこの言葉よ。 特殊な性癖を持っている輩であれば、咽び泣いて謝礼のひとつくらい古賀へと贈呈するだろう。 「俺等はあくまでも保護者的立場で監視しようかなって。木澤じゃ役に立たない事もあるだろうから」 フォローしてあげる、とでも言いたいのだろうか。 やっぱり何らかの呪いに掛かっているであろう早水には同情しかない。 募る苛々。 ぎりぃっと歯軋りする音が脳内にまで響き、影尾に頭痛に似た不快感を感じさせるも、ふぅっと軽く息を吐くと、肩の力を抜いた。 「いや、そうじゃなくて。四堂と親しくなった所で俺に何かメリットあります?」 「…は?」 「だからぁ、俺、それで得する事あります?無いっすよねぇ?」 面倒臭いと言わんばかりに、今度は隠す事無く眉根を寄せ、口の端を歪める影尾に今度は古賀が眼を見開いた。 「何だよ…やっぱお前って俺等、」 「違くて。昨日言った通り、あんた等には何等興味は無いっすよ。むしろ近付いて欲しくなかったですね」 きっぱり、さっぱり。 こうなったら貫くしかない。己の平穏な生活の為だ。 「大体先輩達も俺の中じゃ関わり合いたくない人間の一人なんですよ。そんな先輩達が可愛がってる四堂なんて自動的に近付きたく無いに決まってるでしょ」 古賀にしろ、早水にしろ、ピンク御上にしろ、家は真っ当な由緒正しき金持ち側。寄付金も毎年していると聞いている。個人として見ても顔やスタイルだけじゃなく中身まで優秀と来たら、多少の事であれば学園側が対応、揉み消しを行う筈だ。 そんな彼等に影尾の力が及ぶ訳も無く、そんな前提がある中、四堂と仲良くなったとしても常にバックに彼等が居ると思ったら、おちおち校内をスキップも出来やしない。 しかも、この美貌。信者や下僕志願者も当たり前の様に居る訳で、どこから嗅ぎつけて僻みややっかみを買うかも分からない恐怖なんて御免被る。影尾であろうと捌き切れるかどうか。 例え、 (四堂と友達になれるかも、って言う希望があってもだよなぁ…) 裏表無さそうな、いや、確実に無いであろうあの天真爛漫さ。 自分の様な取っ付きにくいであろう男にも話し掛けてくれると言うのに。 くっと噛み締める唇と険しい顔付きから滲み出る惜しさ。 けれど、どう考えてもリスクの方がデカい。 (だから此処は、) お断り一択のみ。 しっかりと真っ直ぐに目を見て伝えてやろう、と影尾は一呼吸すると勢い良く顔を上げた。 が、 「はあああああ?お前まじで昨日から何なんだよっ、かなり調子乗ってるなぁ、おいっ!!」 ガバッとこれまた勢い良く立ち上がった古賀が顔を赤く染め、ふるふると肩を振るわせ影尾を見下ろす。 「…あ?」 いきなりの古賀の思わず出てしまった低い声は影尾本人も驚くもの。 だが、それがまた彼にガソリンと灯油の油ぶっかけ祭りになってしまったようで、むぅぅぅぅっと唇を尖らせる男はまるで子供のよう。普段涼しげな眼と清涼感の強い顔立ちでどちらかと言えば大人びた雰囲気をかんじさせるも、それが今は全くと言っていい程皆無だ。 「興味無いってなんだ、興味無いってっ!!!普通あるだろ、興味持つだろっ!!両肩に乗っかるだろうがっ!!!」 そんな得体の知れない悪霊みたいな物、生まれてこの方持った事も無い。予定も無い。 古賀の変貌に唖然とする中も、心のツッコミが冴えまくる影尾だが、 「普通分かるだろっ!お前みたいなのが本当なら俺等と話す事だって無いんだぞっ!贅沢だろうが、あああ!?」 未だ肩を怒らせる古賀と、 「あー確かに。木澤の方から近寄り難いって言わしめるくらいだからねぇ」 あはははっと笑ってみせる早水に、とうとう頬を引き攣らせた。 ーーーーバンっ っとテーブルを叩く音と共に。 「ああ、もうっ!うっさいなっ、あんた等っ、どんだけ自惚れて生きてんんだよっ!!」 こちらも立ち上がった影尾の拳は硬い。 苛立ちが頂点に達し、天井を突破したようだ。 久々に出した大声はブランクも感じさせず室内の隅々に響き、当たり前に目の前の三人組へもぶち当たる。 「何が贅沢だよっ、どこが近寄りがたいだよっ、贅沢とも思わねぇから近寄らないんだろうがっ!俺からしたら迷惑の塊でしかないっつーのっ!!!」 友人は欲しい。さよなら、ぼっち生活、こんにちは、新生活、それは憧れだ。 けれど、平穏が崩されるならば、それは阻止せねばならぬ。 「ああ!?お前みたいな平均値の上を行く容姿にスペックだろうがっ!謙遜する程嫌味な人間じゃねーんだよ、こちとらっ!!」 「いやいやいやいや、謙遜って言葉知ってんのっ!?自分の力量を知ってて意図的に下に見せてる奴の事言うんだよっ!したくても出来ないだろうが、あんたはっ」 まさに、ファイッ!!っと掛け声が掛かったかの様なやり取りに、此処に来て早水も緩い顔なんてしていられないのか、うわ…っとソファの上で身体を丸め、口元を引き攣らせる。 古賀がこんなに熱くなっているのを見たのは幼稚園振りかもしれない。 しかし、年数的には影尾も負けてはいない。こちらも数年振りの感情の昂りに血管の一本くらいは持っていかれそうだ。 「兎に角!先輩等みたいなのと関わりたくないんでっ!四堂含めっ!!以上、……!」 ーーーーあ、 眦を釣り上げた侭、これでこの話は終わりだと言わんばかりに鼻息荒く、舌打ちせんばかりにそう告げた影尾だが、視界の端に映った人影に眼を見開いた。 「た、ただい、ま、」 スポーツバッグをぎゅうっと両手で握り締め、立ち尽くす、四堂の姿に。
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