かぼちゃの馬車はあとで美味しく頂きました

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静まり返った室内で四つの眼が注がれるその先は四堂が居る。 顔色の宜しくない影尾の同室者。 笑顔もいつものハツラツとしたものでは無く、思いっきり無理をして口角をあげているようなそれ。 瞬時に思う事と言えば、 ――――――聞かれ、た… 四堂を見詰める四人の考えが奇跡的に一致する。この先二度と無いかもしれない、気が合った瞬間だろう。 その中で誰が一番気まずいかって、 (俺だよっ………!!!!) ごくっと喉を上下させ、古賀と対峙させていた身体から力を弛緩、そろりと視線を戻せば、目の前の古賀も微妙な表情。 一体どんな感情を持って彼を見詰めているかは定かでは無いが、早水を見ても此方も固まっている。 では、御上は、とそちらを見下ろすも優雅に足を組み缶コーヒーを飲んでいるではないか。 どいつもこいつも。 歯軋りしつつ、仕方ないと再び四堂の方へと顔を向ければ、未だスポーツバッグを握りしめた侭、はにかんだような笑みを浮かべ、伏せられた眼の動きはぎこちない。 一体どうしたらいいものか。 取り敢えず、 「…おかえり」 レスポンスは大事だ。 抑揚の無い声ではあるが、そう返すとぱっと顔を上げる四堂が影尾を見詰めた。 「う、うん」 ーーーさて、ここからだ。 きっと四堂は今しがた影尾が放った言葉を聞いている。それを踏まえた上でどう立ち振る舞えばいいものか。 しばし斜め上を見上げシミュレーションするものの、部屋へと逃げると言う選択肢しか出てこない。 選択式のRPGならば炎上間違い無しだ。 (さりげなく…そう、自然な流れで…) こうなっては仕方が無いのだ。 今更言い訳を並べた所で白々しい、最悪ただの嘘つき男に成り下がるだけ。 関わり合いたくないと、はっきり聞こえたであろう、四堂も自分をどうこうしようとは思わない筈だ。 そっと足を後ろへと擦りながら、自室へ飛び込む準備にに取り掛かる。 『それじゃあな』と一声掛けてダッシュだ。 脳内イメージもバッチリに少しずつ後ずさりする影尾だが、どんっと背中に当たった何か。 「…あ?」 「何処行くんだよ。木澤」 次いでどんっと重みが掛かり、振り返り見上げればピンク色の髪がさらりと顔に掛かった。 まさかの御上から思いっきり体重を乗せられ、身動き取れないこの状況。 ぎょっと眼を見開けば、影尾を見下ろす御上の眼もほんの少しだけ瞠られたように見えたが、それよりも先に、 「あっ、あのっ!!」 「――え、あ、」 ずいっと距離を縮めてきた四堂がすぐ目の前に。 ―――え、何、と思う間もなく、逸らす事なく此方を見詰める四堂だが、その眼は若干揺れている。 「きっ、木澤、そ、のっ」 「……う、うん」 「木澤は迷惑かもしれんけどさっ、やっぱ俺、木澤と話したいし、つーか、その友達になりたくて!」 ――――ぐっ、っと胸からせり上がる何かが喉元で詰まる。 「俺となんて関わりたくないかもだけど、その、柊梧とかには過剰に干渉するなって注意するし、勿論俺だって嫌だって思う事はしないからさっ、」 「――…………」 やばい、眩しい。 普通に眩しい。 引き籠っていたニートが三年振りくらいに太陽を見たくらいの眩しさではなかろうか。 しかもこの迷い無い言葉。 四堂の素直さも相まって、余計に影尾の心臓に突き刺さる。ただでさえ若干歪んでいる影尾の性格だ。まるで矯正されるかのように真っ直ぐなそれに自然と背筋が伸びていくも、背後におんぶお化けの如く伸し掛かっている御上が邪魔だ。 「そ、相良っ、」 そうしている間に呆けていた古賀も復活したのか、はっと大きく身体を揺らすと、四堂の名を呼ぶも、 「柊梧はちょっと黙ってろって。これは俺と木澤の問題だろっ」 いっそきっぱりとした甥の声に伸ばそうとしていたらしい手も行き場の無いまま固まらせてしまった。 再びこちらに顔を向ける四堂からは悪意も無ければ、嘘も感じられない。 (えー…) そうなれば、影尾にすとんっと落ちて来た感情と言えば、ただの感動だ。 普通塩対応の上に、関わり合いたくないなんて言った男に友達になりたいなんて言うだろうか。自分だったら絶対に言わないし、なんならトラウマになって数日間は部屋に閉じ籠る案件だ。 なのにそれでも、めげずにトライしてくれるなんて感動以外の言葉が見つからない。 それと同時にかぁーっと顔に熱が集中し、油断すれば赤面してしまいそうになる。 喉元まで競り上がっていたのは驚愕に戸惑いと罪悪感、けれどそれを上回る昂った感情、それが歓喜と呼ばれるそれに自然と影尾の口が開いた。 「………った、よ」 「え?」 四堂には聞こえなかったのか、きょとんとしたその表情。 影尾はぼりぼりと後頭部を掻く。 「だから…分かった、って」 分かった、と言うよりは、負けた、と言う言葉の方が正しいのかもしれない。 この真っ直ぐさを避けれない、避けようがない。 本当、眩さに眼を潰された気分だ。 (無駄に抵抗してもなぁ…) はぁっと息を吐き、少しだけ口角も上げてやれば、四堂の眼が段々と大きく見開かれていき、口もぽかんと開いていく。 古賀も驚いた風に影尾を見遣り、早水もわぁお…っとアメリカンスタイルで肩を竦める。 背後に居る御上はどんな表情をしているかは分からないが、四堂からしてみればそれどころではないようで、がしっと勢い良く影尾の腕を掴むと興奮気味に早口で巻くしたてた。 「え、え、ま、マジ、え?ほ、ほんと、」 「…まぁ、その…同室者って縁も、ある事だしな…」 照れ隠しに、少しだけ目を逸らすと訝しげな古賀と眼が合うも、今更だ。
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