かぼちゃの馬車はあとで美味しく頂きました

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『やばーい、お嫁に行けない』 そう言って胸元を隠した御上にもっと隠すとこあるだろう、と思わずバスタオルを投げつけた影尾が入れ替わりにシャワー室へと飛び込みと、冷水を頭から浴び、全身隈なく昨日の汚れを洗い流すも、すっきり爽快になる筈も無く、 「何だよ、その顔。見られたのはこっちだっつーの」 「………」 無造作に髪をひとつに結い、リビングのソファにてスマホを弄る御上にぎゅうっと唇を噛み締めた影尾の心情は複雑なものだ。 正直に気持ちを吐露、するとすれば。 そう、言ってしまえば自分以外のモノをあの至近距離で見てしまったのは、ほぼ初めてと言っても過言ではなかった。 元々が父親と言う存在が居ない家庭であり、再婚して義父となった男とも風呂等に入った事も無ければ、一緒に温泉旅行、なんて事も無く、裸の付き合いは皆無。 小学校時代の修学旅行だって風邪だと休んでいたが、実のところただのサボりで、クラスメイトの男子と風呂の付き合いとか言うむさ苦しい物も無く、中等部での修学旅行は金持ち学校と言うのが幸か不幸か、部屋に風呂があった為に当然の如く他人様の裸なんて見ていない。 体育時の着替えやプールだって、精々上半身のみ。 そんな人の下半身においては初心者同様の影尾が初めてきちんと目視したのは、自分の物とは全く違うモノ。 自分にも相手にも同じ名称で付いているのに、色や形もサイズも重量感も違うモノってなーんだ? こんなクイズがあってたまるか。 ――――と、影尾が思っているかどうかは定かでは無いものの、何となくショックなのは顔や身長、多分頭だって負けているのに、そこまでも、と言った敗北感があるからなのか。 それとも、違う感情があるからなのか。 尤も、前者であろうと後者であろうと御上には関係も無い事なのだが、ふっと眼を細めた男は早朝であろうと浮腫み知らずの美顔で微笑む。 「俺、温かい茶が飲みてぇな」 「――――は?」 まだ濡れている影尾の髪。 ぽたっと落ちた雫が床を濡らす。 「俺のちんこ見といて、げぇって言葉にも傷付いてんだけどぉ」 ーーーーすぐに淹れましょう。 * 起き抜けに起きた相良が眼にしたのは、リビングのソファにて二人並んで茶を啜っている二人だ。 「まず。何だよ、これどこの茶だよ、よくこんなん俺に出せるな、お前」 「……それしか茶葉無かったんすよ。文句言うなら飲まなきゃいいでしょうが」 「は?それが朝から二人で裸で向かい合ってた仲の俺に言う台詞かよ。まぁ、別にいいんだけど、俺は。お前に辱めを受けたって言いまわってもさぁ」 「…あんた意外と喋るんすね」 「そう?」 「つか、あんたといい、早水先輩といい、コーヒーだの茶だのこだわりが煩い…」 「あ?人のちんこ見といて何つー言い草だよ」 「不可抗力でしょうが」 「責任取れよー」 「御上先輩を娶れと…?」 「あははは、やだ男前ぇ」 ―― ――――… ――――――――――は? 相良は寝癖だらけの頭から、ぱぁんっと音がした様な気がした。 ばちっと風を巻き起こしそうなくらいに開いた眼。 目の前の同室者と幼馴染がこちらに背を向けてソファで会話しながら座っているなんて、まだ俺夢見てんのかな、くらいに思っていただけにまさかの事実に一気に覚醒した脳がフル稼働していく。 昨夜、古賀と早水、そして御上とキノコ大好き配管工おじさん達と車で競うゲームを明け方近くまで熱中してしまい、そのままの状態で寝落ちしたのは確実だろう。 何故なら相良の部屋では古賀と早水が火サスも驚く様な状態で寝ているから。 だったら、御上がリビングで茶を飲んでいても可笑しくは無い。 可笑しくは無い、けれど、頭を掛け回っていく彼等の声が不可解過ぎる。。 朝から二人で裸? 影尾と御上が? 辱め?不可抗力って何が? 責任? 娶る? (て、言うか、) ――――ちんこ、って、 …… ……… 「はぁ!!!!!!?」 朝とは思えないあらん限りの力で出たような声は室内どころか、隣近所にまで聞こえても可笑しくない声量。 防音で良かったなんて思う間もなく、ぎょっと振り返った影尾の目の前には真っ青になった相良と、その相良の声で起きて来たのであろう古賀と早水が顔面パレードと部屋から出てくる。 「相良、早いな…偉いぞ…」 「ふぁ…何どうしたの?」 あぁ―――。 今日も煩そう。 頬の表情筋がそろそろぶち切れそうになるのを感じる影尾の隣で、涼し気に笑う御上は大変楽しそうで何よりだ。 そんな感じで始まった日曜日。 予定していた部屋の掃除なんて進むより前に開始される事も無く、 「はぁ!?木澤お前!俺より先を走んじゃねーよっ!!」 「煩いすっよ…」 「えー、木澤何そのテク?すごいねぇ、人間って何かひとつくらいは出来るんだぁ」 「すごっ、影尾、マリカーすげー上手いじゃん!ぶっち切りの一位だっ!!」 「ダーリン、さすがぁー」 「…………」 開催されたゲーム大会にて、赤い兄とは違い、若干影の薄い緑の弟を操りながら、全てのコースで一位を獲るだけの日になる。 (友達居なかったからなー) 小学生時代、放課後は大きな家の中でひとりゲーム三昧だったのを思い出し、影尾は何とも言えない気持ちは溜め息と一緒に吐き出すのだ。
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