かぼちゃの馬車はあとで美味しく頂きました

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ついでで、うっそりと少しだけ唇を持ち上げれば、明らかに苛立った空気が漂い調子に乗り過ぎたかと身構えるも、両脇をがっちりと囲んでいた男達が離れたと同時に、ちっと舌打ちする小野田がずいっと一歩影尾に近づいた。 最近美しいモノが周りにあった所為か、中々のアップにキツさが生じる。 それは向こうも同じで痛み分けなのだろうが、滲み出る醜悪さが人相に出ていない分影尾の方がマシだ。 「お前、最近古賀達とつるんでるんだろ?何か弱みとか握ってんの?俺等にも分けてくれねぇ?」 「………」 ほらな。 すんっと真顔で小野田を見詰める影尾の顔がそう物語る。 やっぱり碌な事では無かった。 「聞いてんの、お前?」 「いや…別に俺弱みとか握ってないんっすけど…」 「は?じゃあ、今から掴む為にとりいってんの?」 取り入るとはなんだ。あまりな良い様に流石に眉を上がるも、ふんふんっと勝手に納得するかのように頷く小野田に益々募るのは不信感。 「違います、あの人達とは別に、」 「じゃ、何かアイツ等の弱みが分かった時点で俺に教えろよ」 何だろう、こういった輩には人の話を聞かないって言うのがデフォなのだろうか。そんなのと話そうなんてほぼ無理案件に近い。同じ国に住んでいる筈なのに母国語が通じていないようだ。 やれやれと肩を竦めつつ、影尾は周りを流し見る。 「つか、何で弱みなんて欲しいんすか」 「あ?そんなもんアイツ等が気に入らないからに決まってるだろ」 「…気に入らない?」 「家柄だけでなくて、顔が良いだとか、それだけでチヤホヤされて明らかに調子乗ってんだろうが。だから何か弱みでもあれば、スカした顔もぶっ潰せるだろうが」 「…………」 く、 (くっだらない………) 思わず影尾の顔が歪んでしまうのもこれは致し方ない。だってそれほどまでにくだらない理由。 出る杭は打たれるだとか、アンチ税は有名税だと言われてはいるのかもしれないが、所詮僻みとやっかみ、ただの嫉妬ではないか。 そんなものの為に何故影尾があの御三家共の弱みを握らねばならないのか。自分の為ならまだしも、この小野田の為に。 それにこんな男が彼等の弱みを握った所でどうにかなるものでもないのでは? 影尾調べではあるが、そんなもので小野田に勝ち目は無いだろう、色んな意味で。 内部からだけでは無く、外部からも圧を掛けられて小野田だけでなく、家までも何らかの被害を被るかもしれないと言うのに。 生徒の中には一部の生徒に対し、親から失礼な事をするなと直々に言われている人間まで居る。それは外部で縦横と繋がりがあるからだ。 子供同士の事まで、と思う人間も居るが、余計な心配は無い方に限ると言う人間だって当たり前に居る、いや、居て当然だ。 しがらみなんて何処にでもある。 (この学校の仕組み知らんのか…) 尤も、そんな事まで考えられるような頭で有れば、こんな事を言い出さないだろうと言う考えも無い訳では無いがあまりにもお粗末過ぎる。 もしかして、そんな圧力にも屈さない俺かっけー組合の方だったりするのかもしれない。でもだったら堂々とぶつかって行けばいいのに、それも出来ないなんて所詮それだけの人間と言う事だ。 よくよく考えてみれば小野田が起こした暴力事件やカツアゲにしろ、自分よりも下の人間に行われている。 はぁ…っと出て来た溜め息は露骨なものではないが、小野田の眉間が狭まり、眼光も鋭く影尾を射抜く。 「で?俺に協力してくれんだろ?」 「改めて申し訳ないっすけど、俺何の情報も持ってないっす。あの人らの弱みなんて持ってても何ら無意味なんで」 「はぁ?んだよ、お前意外と使えねーのかよ。もしかしてお前が色々情報持ってるとかってただの噂かぁ?」 「さぁ、どうでしょうね」 使えなくて結構だ。誰も使って下さいなんて言った覚えも無い。 影尾だけの魔法、使いたい時に使える影尾だけのものだ。 げんなりと萎えていく気持ちを抱えながらも、ふんっと鼻息荒く勢いで胸を張った影尾はしっかりと小野田の眼を見据える。 正直、古賀達の弱みは何だと問われたら、ひとつだけだが心当たりがある。 でもそれは決して口に出していいモノでは無い事くらい影尾だって分かっている。 それに弱みでもあるかもしれないし、でも逆に捉えればそれは何事にも代えられない強み、いや、危険物にだって変わってしまうかもしれない。 紙一重の取り扱い注意とも言えるのだ。 「て、言う事で先輩のお役には立てないみたいなんで、」 さようなら、と一応目上の人間と言う事も考慮し、頭を下げて見せる影尾だが納得いっていないのか、それとも苛立つ感情をぶつけようとしているのか、『ちょ、待てよっ!』とイケメンしか言えない禁断の台詞を吐き、肩を掴もうと手を伸ばした。 痛みが伴う程に掴まれたそこに、ひゅっと息を呑む影尾が眼を見開く。 あ、やばい。 殴られる、かも。 え、まじで? 怖い、え?え? (嘘、だろ――――) しかし、 (―――――へ、…え?) 衝撃も無ければ、痛みも無い。それどころか、背中から感じる体温に違う意味でびくりと肩を竦ませた。 影尾の肩から伸びた腕が小野田の手を掴んでいる。 「こんにちはぁ、小野田せんぱぁい。うちのダーリンに触らないでもらえますぅ?」 間延びするこの声は、あの人しかいない。
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