目を覚ます方法

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だが、しかし、と言うべきか。 「まぁ…いいんじゃないんすか」 想定内も良い所だ。 今更、驚くような事でもなければ恐縮するような事でも無い。 相良が居れば、背後にこの三人が居ると言うのは当たり前、ヨンコイチと言っても過言ではない。それに対して相良の都合や思考等関係無いのがこの古賀なのだから。 あっさりとそんな風に返す影尾はうんうんと一人小刻みに頷く中、思っていた反応と違うと思ったのだろうか、一瞬きょとんとした風に拍子抜けした顔を見せた古賀が怪訝そうに眼を細める。 勿論何か企んでいる訳では無い。 実を言えば、むしろ彼等三人が居る方が有難いとすら思っていたりする。 (二人で出掛けるとか、) 何を話していいのか、分からない―――。 これが一番の問題だ。 寮のルームメイトだと言ってもお互い向き合って話す時間等、そう長くは無い。話題だって学校の事や部活の事、あとは他愛無い事を楽しそうに話すのは主に相良だけで、うんうんと相槌を打つだけの影尾は時折ふっと笑ったりするのみ。 そんな状況で二人で出掛けるなんて、どうしていいのか全く持って分からない。未知の世界過ぎる。 無知だと言うのならその通りなのだろう。 でも本当に今まで友人と出掛けるなんて事の無かった影尾なのだから仕方が無い事だ。 それ故、色々と面倒ではあるが古賀を含めたこの三人が一緒に居るならば、気まずくなりそうな二人きりと言うよりは天秤に掛けるよりも前にそちらをお願いしたいくらいだと思う影尾だったりする。 「でも一応相良の方にはそちらから話通しておいて下さいよ。後から知らなかったとかで揉められても嫌だし」 ふぅっと出てくる溜め息は安堵から。 これで此方も相良を気遣う事は無い。相良に対して、自分と居て楽しいのだろうかと余計な卑下する事も無い。 自分達も着いて出掛ける事に対し、呆気なく了承の返事を出した影尾の思惑等知る由も無い古賀は珍しく戸惑った様子でチラチラっと交互に早水、御上へと視線を送るも、当たり前に彼等もこの後輩の意図等分かる筈も無く、スッと視線を逸らされるだけだ。 そうして、当然。 部活から帰ったばかりの相良に長身をもじもじとさせながら近付いて行く美丈夫と言う、シュールさ全開の古賀が何やら頬を赤らめて会話する事十数秒。段々と眉間に皺を寄せ、むぅっと唇と尖らせた。 相良としては影尾と水入らず、和気藹々とした休日を過ごしたいと思っていたのだろう。普段何を考えているのか分からない、あまり本心が見えない影尾だけに見えない所も見えてくる、もっと互いに分かり合えたらなぁなんて思惑もあった訳で、友人と言ってもまだ同室者に毛が生えた程度。 あわよくば、もっと親しくなれるならば、なんて思っていたのだが古賀の眼は真剣そのものだ。 「えー…俺等二人だけで出掛けたいんだけどっ」 一応抵抗してみるも、 「まぁまぁ、いいじゃん。俺等も最近出掛けてなかったから久しぶりに色々と回りたいって思ってたんだし」 タイミング最高じゃない?なんて、ひょこっと顔を出した早水にまでニコニコと楽しそうにそんな事を言われ、上から振ってくる圧に益々眉間の皺を深いモノへと変える。 百歩譲って自分は彼等と出掛ける事に慣れてはいるが、そうだ、影尾はどうなのだろう。 もしかしたら、あまり賛成していないのでは? 若干の期待を込めて影尾の方へと顔を向ける相良だが、 「そう言えばさぁ、お前の私服ってちょっとダセーよな」 「は…?」 「なんかちょっと高校生らしくねーっつーか、絶妙なダサさって言うかさ」 「えぇ…」 「どうせだから服とか見たら?俺センスいいんだぜ、だーりん」 「考えときます…」 考えておくと曖昧な答えながらも自分の服をまじまじと見下ろす影尾をくすくすと笑う御上。 うん、確かに若干ダサさはあるけれど、それが影尾だから別にいいのに。 いや、そうでは無くて。 あれ、これって… (もしかして、固められて、る?) えぇ…っと肩を落とす相良の隣では、スマホ片手に何やら検索する古賀がうきうきとした声音を隠そうともせず、『ランチはここにしよう』だとか、『ついでだし外泊する?うちの別宅とか空いてるし』なんて早水と盛り上がっていた。 * 私服がダサい。 そうはいっても急に新しい服を用意なんて出来る筈も無い。 このチェストの中で一番マシであろう白いシャツとジーンズを取り出す。 言われてみれば確かにブランド物なのだろうが柄モノが多い影尾のタンスの中。母の趣味であろう、ラメのようなキラキラ素材も結構使われている服も少なくは無い。 無頓着だったと言われればそれまでだが、では巷では一体何が流行っているのかと問われれば堪えられないのも意外と辛い。 色々と思い出していくうちに、義父も意外と柄物ばかりを好んでいたなと思い出すも、あれは母がスタイリングしたのか、それとも義父から影響を受けたのか、今となってはどうでもいいが早いうちに気付けて良かったのかもしれないと思えば、まだセーフだろう。 中等部時代に適当に購入したトートバッグにスマホとカメラを入れ、これまた一番気に入っている黒いハイカットのスニーカーを用意。 何が正解かは分からない影尾だが、全体的に悪くは無いだろうとリビングへと出れば、既にソファに待機していた相良が思い切り笑顔で挨拶をかましてくれる。 まるで飼い主との散歩を待つ犬のように見えてしまうのも仕方ない。 別に尻尾が見えるだとか、犬耳が似合うだとか、そう言う特殊性癖が作動している訳では無いと己の保身として声を大にして言いたい所ではあるが。
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