目を覚ます方法

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「あれ?何か今日シンプルじゃね?」 「………」 もしかして相良からも私服がダサいと思われていた? 悪気は全く感じもしない相良によって休日の一発目からボディに一発食らった気分になる影尾の肩はすっかりなだらかな下り坂を模るも、用意してくれていたのであろうパンがテーブルに準備されているのを見遣るとソファへと腰を下ろした。 「一応さ、柊梧達とは外で待ち合わせしてるからさ」 「は?あー…」 同じ学園、同じ寮。 常日頃から我が物顔で入り浸ってる男が一緒に出掛けると決定したのだから容赦ない取り立て屋の様にこの時間から襲撃、もしくは扉の外でスタンバっていても可笑しくないと思っていたが一応は考えているのだろう。 伯父甥の関係である相良なら兎も角、今回は明らかに部外者の影尾がもれなく付いている。 これがもし他の生徒達に見られ、それが御三家に憧れを持っている人間だとしたらどうだろう。恨みつらみ、僻まれたりでもしたらこの上なく面倒な事になるのは間違いない。 もしかしたら小野田の比ではないかもしれない。 そう言った事を避ける為に敢えて校外で待ち合わせにしてくれたのだと何となく理解出来る影尾は肩を竦めた。 「あのさ、それでさ、影尾は行きたいとこ、どっかある?」 「行きたい所なぁ」 さくっとしたクロワッサンは早水御用達のもの。 中はしっとりとしていて水分を持ってかれないのが好感が持てる。 (――――行きたい、ところ、) 此方が聞きたい。 友人同士とは一体休日に出掛けたとしても何処に言ってるんだ?何をしてるんだ? 分からない、経験が無いだけに迂闊な事も言えない。 例えばだがカメラを見たいなんて言ったとしても興味が無い者からしてみればそれはただの苦行では無いのだろうか。 本を買いたいだとか、付き合わせる羽目になり、暇を持て余す事態になってしまうのでは? 「ふ、」 「ん?」 「服、とか、」 「あー服なっ、俺も見たいと思ってたっ。ほらもう夏とか来るじゃんっ、部活の合宿もあるし」 昨日の御上の言葉を思い出し適当に言ってみた言葉ではあるが納得してくれた風に同意してくれる相良に気付かれぬよう、ほっと息を吐く。 まだ出掛けてもいない内から気疲れしている感は拭えないが、いつもよりも上機嫌に朝食を平らげていく相良を前にそんな素振りを見せる訳にもいかない。 時に人の弱みを握りつつ、最悪の場合脅迫を交える事も仕方なしと生きて来た影尾と言うのに、本来の性格が変わる事は無いようだ。 十時に待ち合わせ、と言う事で少し早めに寮を出る。 ロビーや食堂から笑う声や談笑する生徒達の声が聞こえるも、残念ながら全て野郎の野太い声。時折甲高い声も交じってはいるが、男子校だなぁと今更そんな事を思う影尾は外へ出るなり空気を吸った。 休日の外。普段の登校時とは違うと思うのは気のせいだろうか。 「あーあ。本当なら影尾とだけで色々回りたかったけどなぁ」 どこまでもカラッとした相良の言葉は良くも悪くも素直そのもの。古賀に聞かせたらショックで胸を押さえて膝から崩れ落ちるのではと想像すれば笑えてしまう。 「あの三人が居たら影尾だって気を遣うだろ?」 「別に」 軽く笑みを見せながらそう答えるも、既に相良に対しても気を遣っているなんて流石に言える筈も無い。 けれど、何処かワクワクとしているのも事実。 何故なら初体験。 誘われた事自体が嬉しいし、それを実行出来てる事に多少なりの期待がある。 不安なんて無い、と言えば嘘になるのだがそれでも初めて経験する友人と遊びに行く事に密かに上がっていくテンション。 肩を竦めつつ、眼を伏せ足を進めて行く中、 「あ、いたいた」 学園の敷地より少し離れた先にある分かれ道付近。 バスの待ち合いにも使われるベンチに無駄に足の長い近年でも稀に見るニュータイプな人種が三人座っている。 遠目でも分かる程の目立つスタイルと美貌は、ハチ公前だとか言う待ち合わせの定番の仲間入りでも出来そうなくらいだ。 「おはよぉー」 けれど、相良が彼等に対して手を振る前よりも早くベンチから立ち上がった古賀の動きは強い顔面ではフォローがしきれないくらいに気持ちが悪いくらいに素早い。 「相良、今日も可愛いな。その服って去年購入してた奴で相変わらず似合ってる」 その上本日も相良botとしての機能がきっちりと仕事しているのも影尾をドン引きさせてくれる。 ベージュのカットソーにキレイめな薄手のカーディガン。ストレートの少々ワイドなパンツだがハイウエストが足の長さを見事に生かしている。 「んで?今日は何処行く予定?」 にこやかに近づいて来た早水はショート丈のネイビー色したシャツに白のクロップドパンツと言うシンプルな格好だが同じシンプルでも影尾と着こなしが違うのは矢張りその長身とバランス良いスタイルだからなのか。 (ふーん) 僻みたくは無いが男としては羨ましい。 そして、この男と言えば。 「う、わ…っ」 「何?」 黒のパーカーにカーキーのスキニージーンズ。 こちらもシンプルだがそれ以上に眼を惹いたのはその耳だ。 「御上先輩、めっちゃ耳開いてるんっすね…」 「あぁ、これ?何かぶすぶす開けてたらこうなった」 一晩寝かせたらこうなった訳ではないであろう、ピアスの数。 右に五個、左に三個。 右に至っては軟骨に二個も開けている。
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