目を覚ます方法

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いつもは嫌でも最初に眼に入る派手なピンク色の髪がキャップに収まっているのも関係するかもしれないが、耳に穴を開けると言う感覚が分からない影尾はまじまじとそこを見詰める。 「学校じゃ外してるんすね」 「色々と面倒だしな」 小さい石から、ゴツいシルバーのリング。 価値は分からないがひとつひとつが綺麗で小顔の御上に酷く似合って、これが映えると言うのだろうと妙に納得してしまう。 「何だよ。熱い視線でもう一つ穴でも開けてくれんの?」 「開けれるもんなら開けてみたいもんですけどね」 ふんっと視線を逸らすも、によによと笑っているのであろう御上の雰囲気を感じ取り、思わず唇をへの字に曲げそうになるがタイミング良くやって来たバスに相良の明るい声が響いた。 (あぁ…) やっぱりドキドキしてしまう。 こんな自分が一緒に居ても、彼等は楽しいのだろうか。 もしかしたら『つまらない』と思われてしまうかもしれない。折角膨らんだ期待がきゅうっと両手で絞られるような感覚にごくりと影尾の喉が上下する。 何となく、脚が重く感じ億劫さが増した――――。 ――――――まぁ、先程まではそう思っていました。 う、 (うまぁ…) 巨大な大福を持つ手が震える。 「影尾って和菓子派なんだろ?此処の大福ってめっちゃ旨いの、食べ歩きにももってこいでさぁ」 そんな風に笑う相良の手には定番のクレープがしっかりと握られ、古賀も同じクレープを悦に入った表情で食しているが、どうやらカップル限定メニューを相良と共に注文したらしくこのまま天に昇って行かんばかりの慈愛に満ちた表情だ。 素直にドン引きしながらも、確かにこの大福は旨い。 餅や求肥、かるかんにういろう、触感に特徴のある和菓子が特に好きな影尾が大福を嫌いな訳が無い。 早水も何やら購入しているが、B級グルメらしいカップに入ったたこ焼きだの、たい焼きだの、唐揚げ串だのと両手に抱えるその量をぺろりと食べてしまうのだからある意味見応えがある。 その後に古賀が率先し、案内されたゲームセンターでは相良が希望する景品をゲット出来るかと勝手に対戦相手に指名され、見事ユーフォ―キャッチャー一発目で取れた影尾が勝利する結果となった。 マ〇カーに続き、ゲームセンターまでも。 「すげーっ!!影尾マジ一発目で取れたぁ!」 わーいとはしゃぐ相良の隣で敗者となった古賀から盛大な舌打ちを頂戴した影尾だが、奢られたランチはこれまた美味なものであった。 「これで貸し借り無しだな」 ふふんっと腕組みする古賀だが生憎貸した覚えも無ければ借りた記憶も無いのだが、ランチに罪は無い。 巨大なパテが売りのハンバーガーだが、デカいだけではない、味までも一級品のそれにもっもっと齧りつく影尾の両頬がぷっくりと膨れる。 「千早、それ辛くねーの?」 「ぜんぜーん。もっと辛いチリソースが良かったなぁ。晩飯激辛拉麺にしない?」 「ははは、馬鹿舌になる過程ってマジおもろいわ」 「相良、おかわりはどうだ?ポテトも旨いぞ?」 「あ、じゃあコーラおかわりしてぇ」 「お前コーラ好きだなぁ。いつか俺がコーラのプールで泳がせてやるからな」 「衛生的にも倫理的にも絶対嫌だわー」 モデル並みの男達が集まればそれなりに視線も集中する。 けれど、そんな視線なんて慣れてしまっているのだろう彼等が気にするなんて事は無く、食っちゃべりながらの会話はマイペースに進んで行く。 「影尾、柊梧の奢りなんだからたらふく食っとけよ」 「いや…マジ旨い…」 「…つか、口元ソース付いてんじゃんか」 紙ナプキンを渡してくれる御上にクスクスと笑われるが、それでも思ってしまう。 (やべー…楽しい、かも、) いつもよりも血色が良い、ほんのりと赤らむ影尾の頬が物語る。 経験した事の無い友人with御三家と言う、ほんの数か月前までは想像も出来なかった面子ではあるが、出掛けるだけで、遊ぶだけで、食事をするだけでこんなに心が弾むなんて。 (す、っげー…) 絶対に面倒だとか思っていたのに、ろくな事が無いって肩を落としていたのに、全く違う感情が影尾の中で膨れるのを感じる。それに戸惑い、どう表現していいのか分からないけれど、でも確かに思うのだ。 (…悪くないわー…) しかも、ピクルスも旨い。 昔家でひとりでウーバーしていた時のモノとはまるで違う。 「な、影尾。これ食ったら早速服見に行こうぜ、俺行きたい店あるし、もしかしたら影尾も気に入るかもだしさぁ」 「おー、期待しとく」 だから、返す返事も素直に。 眉を下げて、ふっと笑えたのかもしれない。 ぽんと顔が赤くなる相良も照れ臭そうに頭を掻き口元を緩め、流れる空気がぽわぽわとした穏やかさを感じさせたが、 「待てっ、お前ら見詰め合うなっ!!まだ早いんだよっ!見詰め合うとか、十年は早いわっ!!」 新婚の家に結婚式の翌日から上がり込む姑の心を持つ古賀がそれを打ち破る。 「柊梧、煩いっ」 全面同意だ。大体早いって何だ。十年先に一体何があるのか。 「木澤ぁ」 「あ?」 「服買いてーの?」 ニヤリと笑う御上も、近付いてくる紙ナプキンも分からない。 「可愛いじゃん」 「……」 きゅっと紙ナプキンに拭き取られた口元。
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