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だからこそ貰わなくていいダメージを受けた影尾の頬が引き攣るも、あぁそうと笑う御上は届けられたピアスの入った箱を手に取ると躊躇いなくそれを開封する。
中には先程見た透明度高い紫の石のピアス。
「どう、これ」
「え、」
何の事を聞かれているのか、分からなかったがピアスの事だと気付き、影尾は口内にあった練り菓子を飲み込むと茶を啜った。
「綺麗っすよね」
「そう?」
「ピアスとか石とかよく分かんないっすけど、綺麗だなとは思いましたよ」
「ふぅん」
「……何の質問だったんすか…」
心あらずな返答にふんっと影尾からは息が洩れる。
と言うか、正確に答えて貰ってはいないが、矢張りこれは御上のモノで間違いは無かったと言う事なのだろう。
温かい茶が体内に流れ込み、まるでぬるま湯に浸っている様な温感の心地良さに、次第に身体がゆっくりと揺れそうになる。一日中歩き回った上に、シャワーを浴びてからの菓子と暖かい茶。
ピアスが持ち主の元に戻ったと言う安堵もあったのか、人の部屋だと言うのに無自覚に瞼を閉じた影尾は一瞬だけ意識を飛ばしてしまった。
多少の、本当に、ほんの少しだけ、御上との空間に身を委ねたくなるとろりとした甘さもあったのかもしれない。
ガクッと頭が落ちたと同時に、しまったと顔を上げた影尾の眼にいっぱいに映った色素の薄い眼。
影尾の首元から頭に掛けて固定する御上の指先の力はミリ単位も動かすまいとする力が感じられる。
(―――――は?)
自体が飲み込めない、何が起きているのか理解出来ない、頭が追い付かないとかでは無く、対応出来るわけも無い整い過ぎた顔が至近距離に。
その瞬間、
―――――バッシュ…!!!
耳元で鳴った破裂音にも似た大きな音と衝撃、次いで襲ってきたのは身体を丸めたくなる程の熱と鈍い痛みだ。
「は、?い、いたぁ…!!!!」
痛みが来るのが遅かった為か、酷く間の抜けた声が室内に響くも未だ何が起こったかも分からない影尾は咄嗟に熱と痛みに侵されるた個所へと手を伸ばすも、
「動くな」
底冷えする、恐ろしい程の低い声と見る者全てを凍らせるかの様な御上の表情に、喉の奥でひ…っと小さな息を呑むだけとなってしまう。
ヘタレと呼ばれようと、今まで培ったキャラが同だとか、そんな事も失念する程の恐怖を感じたのだと後に語る事となるが、今は何が起きているのかを知る事の方が先だ。
告げられた通り、ぴしりと固まった侭、口も開きっぱなしの、さぞかし間抜けな顔をこんな美形の前で、しかも目と鼻の先で晒しているのかと思うと羞恥しか無いが文句を言える筈も無い。
(え、でも、痛い、よな?え?痛かった、つーか、熱い?)
ジリジリとした痛みは鈍いが確かにそこにあるモノ。間近で見る御上の御尊顔に写真でも撮れば売れるかもしれない、この場をビデオでライブで撮れば投げ銭がいくら程あるだろうか、なんて現実逃避的な事に思考を持って行くも自分の耳に何やら施す目の前の男から目が離せない。
何やってるんすかと振り払いたい気持ちと時折チクッと感じる痛みを何とか抑え、ようやっと数分後、すっと耳元から遠ざかる体温にぱちぱちっと瞬きを数回。どうやらほぼ開けっぱなしだったのは口だけで無く、目も閉じられなかったようで酷い乾燥が襲うも、それどころではない。
「あー、いい感じじゃん。似合ってるわ、お前」
「ーーーーな、にが?」
ひと仕事終えたかの如く、満足そうな御上の視線の先。
震えそうになる指で、未だ熱の残る耳に触れると其処にある異物にびくっと影尾の身体が揺れた。
「何、こ、れ」
コツっと当たるそれは小さいながらも硬く存在感を表す。
ニヤリと猫の様に笑う御上から受け取った鏡に写るのはいつもの自分の顔だが脂汗が半端無いが、そこじゃない。
ドッドッドっと煩い心音に急かされるように、ゆっくりと熱の籠る部位へと影尾の黒目が動き、そして大きく見開かれた。
紫色の石。
それが自分の左耳に。
え?
これってさっきの石?ピアス?
何で自分の耳に?
視覚から入ってくる現実と感覚から伝わる情報に脳内が軽いパニックを起こし、影尾の中でぐるぐるとマーブル模様を描くも近代美術にもならない。
ーー分かっている。
分かってはいるのだ。
ちらっとローテーブルを見れば、御上の存在感に圧倒され気付いていなかっただけなのか、いつの間に準備されていた消毒液やコットン、見慣れない器具が無造作に置いてある。
「ピ…アス、開け、ました…?」
「開けたっつーか、開いてるよな、もう」
いや…
(いやいやいやいやいやいやいや!!!!はああああ!!!?)
何そんなきょとん顔で不思議だよなぁ、みたいな顔をしているのだろうか。
最初っから開いてましたみたいに言っているが、開けたのは明らかに御上だ。
「な、なんで、ピアス、」
吃る口調に意識が回らない。
じわりと目元が熱くなるのも気にならないくらいに動揺する影尾だが、こちらはあっさりしたもの。
「ピアッサーで一気に入れた方が痛くねーかなって思ったけど、ファーストピアスって何か可愛くねーからさ。入れ替えたわ」
「え…?いや、何で、」
「本当なら一週間くらいファーストピアスで慣らした方がいいんだろうけど、俺って何でもやってみたいタイプだろ?」
いや、知らん。何、合コン先で出会ったウザい系女子を気取ってんだ。
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