魔法使いの定義

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結局誤解されたまま、訂正する事も無く、またその機会も当たり前に無く中学一年生を過ごし、時折上級生やイキった同級生等に絡まれる事もあったが手八丁口八丁、備えとして色々な情報を集めていたのも効果的に使用し、表立つような大きな揉め事も無く、二年、三年と過ごしていく事となった。 ただ顔は人畜無害そう、普通の男だが中身がやべぇ奴と言う認識は本人を無視し一人歩きしている状態ではあるが。 (―――…まぁ、忌み嫌われるよりもいいのかもな…) 若干神経も図太くなったのかもしれない。 そして、現在、影尾は十六歳となり付属の高校に進学し相変わらず親しい友人ゼロと言う不本意な記録を更新し続けている。 高校は外部からの入学者も居るよなぁ、なんて期待も今更だ。 ただ寮が流石は高等部用とでもいうべきか、今まで四人部屋、もしくは三人部屋だったのが二人部屋になったのは喜ばしい事だ。 中学の寮も四人部屋とは言え、それぞれに仕切りはあったものの部屋を四つに分けたような簡易的なものであった為プライベートのプの字もあったものではなかったが、高等部の寮は小さいながらもリビングを挟み個室になっているのが嬉しい。 ちなみに影尾の同室者は隣のクラスであり、自分の同室者が影尾であった事に一瞬目を見開くも、 『あの、俺、四堂相良(しどうそら)。木澤とは一度…中二の時に同じクラスになった事あったんだけど、覚えてる…?』 律儀にも挨拶をしてくれた事に内心感動で心が震えたのを覚えている。 『よろしくー…』 それくらいの挨拶しか出来なかった自分に嫌な顔ひとつしなかったのも好感度がぶち上がり天井を突き破る案件だ。 元気で裏表無い人間、いつも数人の友人に囲まれている様な、影尾とは正反対で大口を開けて笑っていた印象の相良は矢張りこんな自分にも分け隔てなく接してくれる男らしい。 尤もそれ以上挨拶と必要最低限の事は話してはいない。 好感度で言えば最下位層を練り歩く自分がそう馴れ馴れしくしては相手も迷惑だろうと言う培った自己肯定感の低さと社交性皆無故のコミュ障が原因になり、影尾は出来るだけ部屋へと閉じ籠る事となった。 まぁ、彼に関してはもう一つ、関わりたくないと切に願う大きな理由があるのだが。 だが、どう言う訳だか、 「あ、あのさ、飯食いに行かね?」 「―――――いや、いい、かな」 夕食に誘われる。 「おはよ、朝飯学食?だったら一緒に、」 「…俺部屋でパン食うから」 朝食に誘われる。 「木澤、あの、お菓子結構色々貰って、」 「…………」 おやつに誘われる。 ――――これは一体何だ。 日曜日の午後、扉を叩かれ開けてみれば緊張した面持ちでポテトチップスだのクッキーだの、チョコレートだのを持って立つ相良に影尾の口元は引き攣る。 「…何?」 「だから、その、おやつ…」 影尾よりも少しだけ身長が低く、顔も平均値。これだけ見れば影尾とそう変わりない外観スペックだが仕草が愛らしい。愛嬌もあるのだから余計にそう思うのかもしれない。 「…俺はいいよ。誰か他の人誘ったら?」 羨ましい、素直にそう思える相良はあまりに自分と不釣り合いに感じる。故に若干の嫉妬にも似た感情も生まれそうになり、それが余計に惨めさを感じさせるも、 「いや、俺、木澤とちょっと話がしたくて」 「話…?」 やたらと真剣にこちらを真っ直ぐ見る眼に折れたのは影尾の方。 「じゃ、少しだけ、」 ドキドキとしてしまうのはまさかの他人と菓子を食うという状況に期待しているからなのか、それとも不安だからなのか。 ごくっと喉を上下させた影尾はそろりと部屋から足を踏み出した。 * ちなみにだがこの学園内で近寄らない方がいい人間と言う者がいたりする。 冒頭で述べた、弱みが通用しないタイプの人間。 どうなってもいいと開き直っているタイプと優秀過ぎて学校側が手放したくないと思う人間、この二種類だ。 このタイプの人間には出来るだけ力寄らないよう、接点が無いように過ごしていた影尾は目の前のチョコレートをひとつ摘まむ。 (……四堂って、) ―――本当ならば近づきたくないタイプの人間のひとりだったりする。 「あ、木澤ってウーロン茶飲む?ええっと、ポカリとかもあるけど、後は、」 「いや…ウーロン茶でいいよ」 リビングのテーブルに用意されていたペットボトルを手に取り、此方も用意されていた紙コップへと注げば、安堵したように微笑む四堂も開けたばかりのポテトチップスへとてを伸ばす。 漂うこの空気感。 息苦しさを感じているのは影尾だけだろうか。 「で…話、って何?」 この学園に来て他人と話す事なんて滅多に無いだけに声が震えそうになるのを何とか堪え、ちらり視線をやると、その視線を受けた四堂は身体をもじもじとさせながら、眼をきょろっと動かす。 「じ、実は、俺、サッカー部、なんだよね」 「はぁ…」 まさかサッカー部への勧誘なんて事は無いだろう。 人間が友達になってくれないからとボールを友達にする気は無い。 第一人の眼を惹く程運動神経も宜しくない上に走ってボールを蹴れる様な器用さも無い。そんなのが上手ければ人間関係だってもっと上手く築ける筈だ。
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