目を覚ます方法

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人との距離感が分からないから、どう接するのがベストなのか。 けど、友人は欲しい、話を出来る人間がいればいいのに、と思うだけで長年培った歪みまくった偏見とトラウマにどうしていいか分からない。 そんな事ばかりを考え過ぎた所で答えが見つかる訳も無く、無駄にぐるぐるとループを繰り返すと言う影尾の性格を何故か言い当て開てくれた御上に、じっとりとした恨みがましい視線を送った所で今更だ。 照れ臭いのを隠す為のそれ。 「…あの、じゃ、今度、」 「うん?」 「耳、慣れたら…もう片方を、お願いしても、いいですか…」 途切れ途切れながらも自分から言い切った事に対し、バクバクと心臓が破裂しそうになる影尾の手汗は尋常ではない。 でも、今までの影尾からは考えられない、『お願い』を、しかも他人にしたのだ。母親にだって小学校高学年になった頃には何も期待する事も無く、何かを強請る事だってしなくなっていただけに、こんな他愛も無い事を言葉にするだけで、緊張するのも嘆かわしさに涙が出てきそうだが、 「りょーかい」 そう言って青いパッケージの消毒液と個包装された脱脂綿を幾つか影尾に渡すと御上の眼が三日月を模った。 「それまでに、そっちはしっかり消毒しとけよ」 皮肉めいた訳でも無く、小馬鹿にした風でもない、こちらの毒気も抜けて行く様な笑みにジンジンと痛む耳と心音が重なって煩く感じた影尾は、ぎゅうっと身体を丸めるのだった。 「でもさぁ、お前の素ってそっち?」 「え?」 「おどおどした喋りだよ。めっちゃどもるし」 ―――――あ、 びしっと固まれば、大口を開けて笑う御上の喉奥まで見えても、男前は変わらないのだから、不思議なものだ。 * 自室に戻るなり、とっくにシャワーなんて終えていた相良が戻って来た影尾を待っていたのか、飛びついて来たのが何となく可愛らしい。 犬が飼い主を待っていたかのように見える辺り、絆され具合が分かると言うものだ。 「なぁ、明日って何か予定ある?どうせなら、」 どうも何やら思い付いたのか、明日の予定をお伺いしてくる相良だが、ふっと視線が一点に止まった。 まぁ、当たり前だが気付くだろう。 「……え、ピアス?え?影尾ってピアスしてたっけ?いや、してないよなぁ…」 独り言のようにまじまじと影尾の耳を凝視する彼は瞬きひとつしない。 「あー…開けた、っつーか、」 頭を掻きながら眼を伏せる影尾は、空の視線を受つつ、少しの間を開けて少しだけふにゃりと口元を緩めた。 「開けて、もらった、みたいな」 「えっ!!誰にっ!?」 「…御上先輩」 「え、っ、虎くんっ!?」 いつもは御上先輩と呼んでいるのに、幼馴染の名残が驚愕と共に出来て来たのか、幼さの残る呼び名で肩を跳ねあがらせる相良に笑みが零れてしまう。 「な、何それっ!マジで急接近してない!?えー、何かずりぃ!!」 耳元で騒がれるのは若干煩いのだが、それすらも需要出来るくらいに何だか心の軽さを感じてしまうのだ。 ぶつぶつと唇を尖らせ文句を続ける相良を宥め、明日は一緒にゲームをする約束をすれば、あっさりと鼻歌混じりにおやすみぃ~と部屋に戻っていく後姿に感じるチョロさ。 でも、人の事は言えない。 (俺も相当…チョロい、よな…) 影尾も部屋へと戻り、ベッドに腰掛けゆっくりと身体を倒す。 自分の身体に気を遣う様に動くのは、まだ開いたばかりのピアスホールを気遣っての無意識から。 熱っぽいそこに枕が当たらぬ様にごろりと横を向き、ぼんやりと窓側を見詰める。 『でもさぁ、お前の素ってそっち?』 (―――バレて、しまった…) 誤魔化すと言う手もあったのだろうが、どう考えても今更感が強いと言うか、滑稽が過ぎる。 しかも気付かない内に、自ら曝け出してしまっていたのだからどうしようもない。 中学に入ってから誰にも見せぬ様、バレぬ様に気を付けていたと言うのに、バレてしまえば、実に間抜け極まりない結果過ぎる。 人の弱みを握って己を守っていたのに、反対に弱みを見せてしまうとか失笑モノ。 けれども、と影尾は思うのだ。 (…馬鹿にされた、風じゃなかったよなぁ) 笑ってはいたが、嫌悪も感じなければ、感じさせるものでもなく、ただ純粋に楽しそうに笑う御上に口止めするのも忘れてしまったくらいだ。 (でも、あの人言わなさそう、な感じもするし…) と、言うよりも、とっくに影尾の性格等把握していた様にも感じる。 そう考えてしまえば口止めも愚問。 下手したら、ただの失礼に値してしまうかもしれない。 身体は重く、疲れているのを感じる。 さっきまでその衝動に駆られる侭、素直に落ちてくる瞼と共に船を漕いでいた影尾だが、今では変に眠れない。 興奮しているみたいに息も浅い。 (あっちぃな…) 明日にはもっとマシになっているのだろうか。 (消毒、ちゃんとしないとな…) 朝するのが良いのか、それとも夜? (無くさない様に気をつけよ…) 何故御上がピアスなんてくれたのかは結局未だに理由は不明だが、折角くれた事には変わりない。 それだけで、優越感に似た感情が頭まで昂らせ、眠れる気がしない。 中々雑な目の覚まし方。 ふふっと笑う影尾は、また耳にある石に触れながら、眠れる気はしないがゆっくりと眼を閉じた。
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