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銘々に頷けば、父さんは少し目を伏せる。その表情は、僅かに辟易とした色が滲んでいるように見えた。
「……本来ならば、お前達に頼むほどのものでもないのだが…依頼主がその、なかなか心配性な人でな…」
「あー…」
「いるっすよねー、そういう人」
父さんの言葉に苦笑い。どうしたって一定数いるのだ、どれだけ危険じゃないと説明しても「知らん!」と言いきれてしまう人。多分、今回の依頼主さんもその類。
「それで、具体的な内容は?」
「ああ、何でも、狸が訪ねてくるらしいのだ」
「「……は?」」
僕と廉くんの声が重なる。そうだよな、とばかりに、父さんは神妙な顔で頷いた。
「……え、狸ってあの狸っすか」
「ああ、あの狸だ」
「ぽんぽこお腹叩くあの狸…?」
「その狸だな」
廉くんと僕の問いに順番に答えて、父さんはまた一つ頷く。かと思えば、両手で顔を覆った。
「いや、本当にすまない。申し訳ない。断るに断ることが出来ない方でな…」
「化け狸の可能性は?」
「ああ、そこはちゃんと化け狸だ。毎夜、化け狸が訪ねてきて、『開けろ、開けろ』と戸を叩くらしい」
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