ラストレター

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 朋美は家に帰ると、便箋を開けた。一枚しか使われていないそれにはあと、二十九枚残っていた。  「私も、手紙、書いてみるよ」  朋美はゆっくりとシャーペンを走らせた。書いてみると意外に何を書いたら良いのかわからなくなり、何度か手が止まる。  それでも、朋美は今日感じたことや見たことを、できる限り言葉に綴った。  朋美の書いた手紙の宛先は、自分ではなく、あの日の凪へだった。  明日の君はもういなくなっちゃったし、明後日も明明後日も永遠に凪はいないから。  あの日の凪に手紙を書く。私の隣で笑ってた大好きな凪へ。  朋美は、彼女と同じように手紙をベットの上に置いて、眠りについた。朋美はその日、久しぶりに深い眠りについた。  次の日の朝、朋美は手紙を開いた。  朋美は、もう一度その文章を読み直した。数時間前の自分が書いた文章なのに、まるで他人が書いたものみたいでなんだか不思議な気持ちになった。  「凪もこんな風に昨日の自分からの手紙を読んで、一人じゃないって思おうとしてたのかな…」  苦しかったなら、辛かったなら、言ってほしかった。凪は決して一人なんかじゃなかったのに…  朋美は涙でぼやけた視界のまま、手紙の最後を見た。するとそこには、なかったはずの「ありがとう」という一言が添えてあった。それは、何度も見てきた凪の字で間違いなかった。  「え…?」  もう一度涙を拭き取って手紙を見ると、そこにはもう何も書かれていなかった。だけど、それが凪からのメッセージだと気づいた朋美は、そのままベットの上で泣き崩れた。  凪はもう、どこにもいない。だけど、朋美は不思議ともう悲しくはなかった。  朋美はこの手紙を最後に、二度と手紙を書くことはなかった。  きっと、凪は天国で朋美を見守ってくれるとそう感じたから。  「この空は、天国でもこんな風に見えてる? …亡くなった人は、雲から地上を見守ってるって、昔言ってたよね。雲の中に、凪の姿を見つけられるかな。私も」  凪の四十九を迎えた今日。葉は赤や黄色に色づき始め、季節の変わり目を教えてくれる。秋の風を感じながら、朋美は学校へ進む道を歩き始めた。  
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