ラストレター

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 日が沈み始めると、二人は再び渋谷駅に戻り始めた。日中よりも人が少なくなっていて、横断歩道が渡りやすかった。  二人は電車に揺られながら地元へと帰っていく。電車が進めば進むほど緑が増えていき、都会の騒がしさは消える。二人はいくつか思い出話をしながら電車に揺られていた。  駅を降りてしばらく歩くと、二人は分かれ道に来る。ここでお別れだ。昔は次の日も学校だったから、「またね」なんて言ってすぐ別れていたこの場所も、しばらく会えないと思うと名残惜しい。  「帰るの、寂しいね」  凪がぽつりと呟いた。凪の本当に寂しそうな言葉に朋美の心はきゅっとなった。あの頃と違って、自分たちは別の場所で生きているという現実が感じ、少しだけ苦しくなった。  「また、すぐに会おうよ。今度は暑さが消えて、秋が来たら会おう。きっと美味しいものも沢山あるよ」  「うん、じゃあ秋になったら、また」  「連絡するね」  「うん、待ってる」  帰宅部の凪と違い、朋美はバスケの強豪校に進学していた。今日はたまたま体育館の工事で練習が休みになったが、普段は一日休みなど滅多にない。夜ご飯を一緒に食べることも難しいような忙しい毎日を送っているので、いくら近所に住んでいても昔みたいに気軽に会える関係ではなくなっていた。もちろん今の生活には満足しているが、予定もなくダラダラと過ごしていた中学時代が、朋美は少し懐かしかった。
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