ラストレター

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 それから朋美は凪の母に案内され、凪の部屋に入った。この部屋は、朋美が中学の時に訪れた時と何も変わってなかった。  「実は今日朋美ちゃんを呼んだのは、これなんだけどね…」  凪の母はそう言うと、鍵のかかった箱を取り出した。その箱は木でできていて、少し重そうだった。  「四桁の番号で開くみたいなんだけど、どうしてもわからなくって」  「凪の誕生日とか、スマホのパスワードとかは…?」  「もちろん試したわ。私や夫の誕生日や、出席番号とかも。けど、どれもダメで」  「もしかして…」  朋美は試しに自分の誕生日を入れてみた。すると、カチッと言う音がして、鍵が外れた。  「あ、外れたわ…。なんの数字だったの?」  「私の、誕生日です」  「そう」  「あの、これは?」  箱の中には大量の手紙が入っていた。  「あの子、毎晩手紙を書いていたの。わざわざ朋美ちゃんの誕生日にしてたんだから、あなたが先に読んで」  「え、でも」  「いいの、私は下に降りてるわ、ゆっくりしていってね」  「ありがとうございます…」  笑顔で部屋を出る凪のお母さんのは、すごく疲れていて辛そうに見えた。朋美は手を少し震わせながら、手紙を開いた。  その手紙はどれも、明日の凪自身に書いた手紙だった。  「そんな…」  手紙には、凪の辛い日々が綴られていた。新しい学校で仲の良い友達が出来なかった凪は、いつも一人で過ごしていたようだった。朋美の知る凪は、決して友達を作るのが苦手な方ではない。しかし、この手紙を見る限り、気の合う子が本当にいなかったのだろう。  高校一年生の頃の経験がトラウマとなり、二年になってからも友人はいなかったようだった。それに加えて、物を取られたり、あからさまに無視されたりと、いじめられていたらしかった。  「こんなの、一回も言ってなかったじゃん…」  朋美は凪が手紙を書き出した高校一年の五月の手紙から、一通ずつ丁寧に読んでいった。日が沈んでくると、朋美は部屋の電気をつけて読み続けた。日数が進めば進むほど、朋美の字は雑で、でもどこか苦しそうな、そんな手紙が増えていった。凪は手紙を涙で汚さないように必死に堪えた。  手紙はとうとう最後の一通になった。  「これ…」  その手紙は、この前朋美と出かけたときに買った便箋に書かれていた。朋美は、大きく深呼吸をして、一文字ずつ確認するように読み進めた。  『明日の私へ   今日はすごく楽しかったよ。   あんなに笑ってた私、久しぶりだった。   朋美に心配かけないようにするつもりだったけど、   朋美といたら学校でのことなんて忘れてて   心の底から笑顔になれた   明日からはまた辛い日常が戻ってくるけど、   秋になったら朋美がまた遊んでくれるって!   すごく楽しみだな   今日はとっても幸せだったよね。   朋美に出会えて本当に良かった。   また、すぐに会いたいな               3月4日の凪より』  朋美は手紙を閉じると、声を殺しながら泣き始めた。  「私だって、凪に会いたいよ…」  買ったばかりの朋美の服は、涙で濡れてしまっていた。
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