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「近いんですってば、離れろ」
ぐいっと押し戻して、ちらりと彼を見る。先輩は何を思ったか、やけに恭しい仕草で、僕の手を取った。
「……君がジュリエットじゃなくて、僕がロミオじゃなくて、よかった」
静かに手の甲に口づけて、へらっと彼は笑う。
「………………相変わらずクサい人ですね」
たっぷり呼吸三回分の間を置いた後、呆れた声で返して。……嗚呼、もうすぐで暗くなるなぁ、なんて、窓の外を視界の端で捉えながら考える。
「言わないでよ、恥ずかしくなってきた」
「先輩って結構ロマンチストですよね」
「否定は出来ないなぁ」
くすくすと笑う声。やれやれと肩をすくめ、ぽんぽんと彼の頭を撫でる。ふわふわの髪が手に心地いい。
「でもさぁ、すっごく陳腐な言葉になっちゃって嫌なんだけどさぁ?」
幼子のような物言いに首を傾げる。綺麗なアーモンド形の瞳が僕を見つめていた。
「……凜とこうして出逢えたのは、運命なんじゃないかなぁって。奇跡だなぁって」
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