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「…まさか凜、僕のことが心配で、」
「学校の床汚れるから以外なんでもないんですが」
間髪入れずに返すと、桐村先輩はしゅん、と眉を下げる。
「えー。ちょっとそれは寂しいよー?」
「知ったこっちゃないですよ。じゃあ僕部活あるので、」
「……そういえば吹部は先生方がこぞっていないから自主練とか…部長ちゃんが言ってたなぁ」
頬に人差し指を当てて、あざとく上目遣い。僕はぱちぱちと瞬きをして、深いため息をついた。
「…それ、嘘だったら桐村先輩の責任ですからね」
「噓じゃないよ〜。よし、一緒に帰ろっか」
上機嫌で言う彼に「はいはい」と返して。
「今日、僕んち寄ってってよ」
こそっと囁きこまれる言葉。それが示す意味に気づいて、またため息。言葉で答える代わりに、一つ、頷く。
「あ、ため息!ため息吐いたら幸せが逃げちゃうんだよ!」
「またそんな子供みたいな…」
「だって逃げちゃうじゃん」
ぷぅっと頬を膨らませる先輩を置いて、下駄箱の中から靴を取り出す。一人校門前まで行くと、桐村先輩が駆け寄ってきた。
「置いてくなんて酷い、」
「貴方が遅いんでしょ」
「冷たぁい」
けらけらと笑いながら、彼はさり気なく手を繋いでくる。それに抗うことなく、表情一つ変えずに歩きだして。
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