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へへ、とはにかむ彼。心底恥ずかしいのだろう、耳の縁がほんのりと赤く染まっている。
(…………恥ずかしいのはこっちもなんだけどなぁ)
何だか胸のあたりがむず痒い。照れ隠しに、彼の頬を引っ張っておいた。
「……ほんっとに陳腐ですね」
「だから言ったじゃん」
もぉ、と頬を膨らませる彼が愛おしくて堪らない。確かに、こうして彼の隣に居られるのは奇跡なのかもしれない。…けど。
「――運命でも、奇跡でもないですよ。僕らの出逢いは」
僕らがこうして隣に居ることは、そんなに大層な言葉で表していいものじゃない。そんなに、特別なことじゃない。
「ただの、ありふれた日常です。世界の何処を探しても、そこら中に転がっているような、そんな日常。……特別なんかじゃ、ないんですよ」
静かに言えば、先輩は呆けたような顔でぱちぱちと瞬く。それから、ふはっと笑った。春のひだまりみたいな笑顔が眩しくて、目を細める。
「――凜も凜で、大概ロマンチストだよね」
「うわぁうざい」
なんて、けらけらと笑って。先輩もつられたように笑った。
そんな、夕暮れの日常。
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