第九話 復元

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第九話 復元

 地下四十八階 総合研究室――。  陽葵の部屋よりも更に深く潜った場所にその施設は存在した。今では誰も使うことのないこの場所で、神宮寺と春翔は宇宙に出るための準備を進めている。  さまざまな計器や液晶モニター、机にパソコン。その中で異彩を放つ円柱の巨大なガラスケース。透明感のあるエメラルドグリーンの液体が満たされたドラム缶ほどもあるその中に陽葵の脳がぷかぷかと浮かんでいた。 「これでよし、あとは勝手に身体は復元される」  神宮寺はその場を離れて自分の席に座ると、ノートパソコンをカタカタと打ち出した。 「え、これでおわり?」  陽葵は目の前に浮かぶ自分の脳を指差した。今のところなんの変化もない。 「ああ、いま脳細胞からDNA情報をスキャンしている。それが終わればあっという間だ、大人しく待っていろ」 「ふーん、春翔くんもこれで?」  神宮寺の隣で同じようにパソコンとにらめっこしている春翔に声をかけた。二人して何をしているのか気になるが、どうせ聞いても分からないだろうと思って黙っていた。 「あ、はい、そうです」 「へー」  再びガラスケースに視線を戻した時だった、脳の回りにうっすらと膜のような物ができている。すると次は骨が現れて人の顔の形を形成していった。頭蓋骨が脳をおおうと皮膚が形成されていく。眼球が生まれ、髪が伸びる。物凄いスピードで陽葵の顔に近づいていく。 「うわっ、ちょっとちょっと春翔くん、すごいよ」  陽葵は自分が形成されていくようすに興奮して、春翔を無理やりガラスケースの前に連れてきた。 「ほらほら、もう顔ができてる」  興奮する幻影の陽葵とガラスケースに入った陽葵、同じ顔が二つ向き合っていた。 「あ、うん」  春翔の反応はイマイチだ、自分が復元された所は見ただろうから感動が薄いのかもしれない。 「クックック」  神宮寺の小馬鹿にしたような笑い声が聞こえてきて振り返ったが陽葵にはその理由は分からない。再びガラスケースに目を戻す。  顔が完成すると首の骨が生えてくる、その周りを血管と皮膚がおおう。さらに縦に背骨が伸びてきて枝分かれするように肋骨が形成される。 「すごーい」  感嘆の声が出たところで陽葵はハッとした。 「春翔くんだめー、見ないで! 神宮寺さんも見たら殺す」    春翔を部屋の隅に追いやって陽葵はガラスケースを抱くようにして隠した。このまま身体が形成されたら素っ裸の陽葵が一丁上がり。二人に全裸を見られてしまう。  ガラスケースに張り付いたまま陽葵は中のようすを見守る。間一髪、春翔に胸を見られなかったことに安堵した。 「そんなぺったんこの乳なんか誰も見たくないだろ」  にやにやと笑いながら神宮寺がいった。 「あー、やっぱりおっぱい触ったんだ、サイテー、ロリコン、モジャモジャー!」  頭を引っ叩いてやりたかったが、ガラスケースから離れるわけにはいかない。すでに下半身もほとんど出来上がっていた。 「ちょっとこれ、神宮寺さん、これどーしたら良いの!」  ガラスケースに張り付いたまま陽葵は振り返って神宮寺に助けを求めた。 「どうって、肉体の中に意識を戻せば終わりだよ」 「ハァァァ! 絶対無理!」  このまま意識を肉体に戻せば幻影は消える、遮るものがなくなり裸の陽葵が丸見えになってしまう。 「はは、絶対無理って。お前は一生そこで生きていくのか?」 「くっ」  このモジャモジャ楽しんでいる、陽葵は神宮寺に殺意を覚えたがなにせこの場所を離れることが出来ない。 「あ、あのー」  春翔が壁の方を向きながら話しかけてきた。 「僕たちは部屋を出てますから、その間に肉体に戻って着替えてください」  そう言うとこちらを見ないように背中を向けて神宮寺に近づき、腕を引っ張って出口に向かった。 「なんだよ、めんどくせぇなあ」  ぶつぶつと文句を言う神宮寺はしぶしぶ部屋を出ていく。 「ちょっとー! 着替えなんてどこにあるのよ!」 「十五番のロッカーだ」  それだけ言うと研究室の扉は閉められた。
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