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|fleur de cerisier《フルール・ドゥ・スリズィエ》
「桜が綺麗な季節になりましたね、マリー・ヴァレンティ―ヌ嬢」
「―――ジョセフ殿下」
森の木々が新緑に色づき始め、マリアとジョセフは優雅に散歩していた。
「まだ、お加減が優れないのですか? 無理をしないでくださいね、貴女が健康な姿が1番ですから」
「ありがとう。ええ、ここは少しばかり寒いのかもしれないわ」
「邸へ戻りましょうか。さ、手を」
ジョセフの手を取り、マリーは歩き出す。聡明で、美しいジョセフは王家とも血縁関係がある由緒正しい貴公子だった。そんな彼と婚約したマリーは、幸せの絶頂と言える立場だったがそうではなかった。
この桜が咲き乱れるこの季節、あの思い出が蘇ってくるのだ。
あの美しくて、悲しい思い出が――
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