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席に帰ってからは普通を演じた。
「綺麗な歌声ね。あの歌姫、素晴らしいわ。是非、私の邸で歌ってもらいたいこと」
舞台の上で歌う歌姫を見つめ、ガブリエルは絶賛した。
「いいわね。後で楽屋に向かったらどう?」
「そうね。マリーも一緒に来る?」
「ごめんなさいね、ガブリエル。宮廷に向かわなくちゃいけなくて」
「あら、そうだったのね。いいわよ」
「ありがとう」
劇が終わると、2人は別々の場所へ向かった。
劇場を出ると、もう夜だった。夜と言ってもまだ、そこまで暗くない。入口の目の前に馬車は止まっていた。
「お嬢様、お迎えに上がりました」
教育係の伯爵夫人が馬車から降りてきて、ドアを開けた。
「さあ、お乗りくださいまし。宮廷へ向かいましょう」
「ええ、ありがとう」
馬車に乗り、上等な生地の椅子に腰を下ろす。
優雅で、美しく見える貴族も実はそうでないことを知っているのは、一体どれくらいの人々だろうか――。そんなことを考えながら、マリーは窓の外を見つめていた。
「お嬢様、お聞きになりまして? お妃候補のお方について」
「いえ、聞いていないけれど」
「少しお勉強がお嫌いだそうで、私共は心配でございます」
「そうだけれども……世継ぎを産めばいい話なのよ。君主の妃の役目は結局、それだけ」
マリーの瞳にはたまに、何も映らないことがある。感情も、何もかも。現実を見て、正しいことを述べているだけだが、その瞳は――濁っていた。
「さあ、着きましたわ。急いで御着替えをなさって、国王陛下にお会いしなければっ!!」
「そうね」
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