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フィレンツェ!
こんなところに、その町の名前が飛び出してくるなんて思いもしなかった。
それは、ぼくがこれから住む町の名前だった。お父さんの仕事の都合でぼくたち家族は、夏からイタリアのフィレンツェに行く予定になっていた。
イタリア行きを知らされたとき、ぼくは一番に直樹に報告をした。
「一年ちょっとで帰ってくるんだけどさ」
すると、サッカークラブに入っている直樹は「すっげ! すっげ!」と言って興奮した。
「イタリアのどこに行くの?」
「フィレンツェだって」
ぼくが答えると、直樹のテンションは見る間に下がった。
「なんだよ~。ミラノじゃないのかよ~」
「ミラノになにがあるんだよ?」
ぼくが聞くと「ミラノだったら、インテルもあるし、ACミランもあるじゃないか」とほっぺたをふくらませた。
インテル、ACミランっていうのは、イタリアのサッカーのプロリーグ、セリエAのチームのことだ。二つとも、チームの本拠地がイタリアの北部に位置するミラノという町にある。
「せめてトリノだったら~」
そう言って、残念がる直樹は、トリノにもユベントスという強いチームがあることを教えてくれる。トリノは、冬季オリンピックが開催された町なので、ぼくも聞き覚えがあった。
「フィレンツェにはサッカーチームはないの?」
「あることは、あるけど……」
そう言って、くちびるをとがらせるところを見ると、お気に入りのチームってわけじゃないんだな。
「まあ、せっかくイタリアに行くんなら、サッカーチームに入ったら?」
と、直樹はすすめてくるけど、休み時間にボールをける程度の経験しかないぼくが、サッカーの本場のチームに入ってついていけるとは思えない。
直樹だけでなく、クラスメイトのほとんどがイタリアに対するイメージはその程度で、フィレンツェがどんな町なのか知っている子はいなかった。
未知なる町、フィレンツェ。
(アルチンゲール……じゃなかった。ナイチンゲールが生まれた町にぼくは行くのか)
なんか、しみじみ運命を感じる。
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