標的

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 朝早く起きて勉強、学校いって勉強、帰ってからも寝るまで勉強。    そんな生活も今日で終わりだ。    受験会場を前に、今までの記憶を遡る    十八年、この日の為だけに生かされてきた。    もし、受験に失敗したら殺されそうだ。  散々殴られた挙句、家を追い出されるのは確実だろう。  受かった場合、あのクソ親父は僕を褒めるのだろうか。  まぁ、あいつに褒められたところで嬉しくもなんともないが。  受験会場に入り、指定された席に座る。  程なくして、試験官らしき人が説明を始めた。  説明が終わり、問題用紙と解答用紙が配られると、周りの空気が緊張に包まれた。  チャイムと同時に、皆一斉に問題用紙を開く。  空間に響き渡る問題用紙を捲る音と鉛筆の音が、受験生たちの焦りを誘う。  そんな中、貴之は妙に落ち着いていた。  ゆっくり丁寧に、且つ迅速に問題を解いていく。  見直しを終え時計を見ると、試験終了まで十分あった。  念には念をで再度解答用紙をチェックする。  チャイムが鳴り、試験官の指示で退出していく。  試験は午前と午後で合計三教科あった。  家に帰り玄関のドアを開けると父が立っていた。 「…お父さん、どうしてここに。今日はお仕事ないんですか」 「どうだった」 「え…」 「試験はどうだったと聞いている」  僕の質問に答えろよ。日本語できないのかこいつは。 「手応えはあります。心配なさらないで下さい」 「心配?はっ、なに馬鹿な事を言っているんだ。幼い頃から今まで、この優秀な俺が指導して。舐めた口を聞くな」 「…すみません」  頭を下げ、部屋に入る。  鞄を放り投げベッドに倒れ込む。  くそっ。労いの言葉のひとつやふたつないのか。  イライラしていたが明日は面接がある。  明日に備えて早く寝ることにした。  目の前には試験官が三人座っていた。 「では、高校名とお名前をお願いします」 「はい。T高校、飯田貴之です。本日はよろしくお願いします」  試験官は志望理由やら特技やら長所やら、手元にあるエントリーシートを見れば分かるであろう質問を投げかけてくる。  それに対し、ひとつひとつ丁寧に答えていく。  自分よりはるかに年上の人間が、僕の事を知りたいと質問をしてくる。  それが例え仕事だからだとしても、嬉しかった。  僕を見てくれている気がした。  難なく面接を終え、本当に受験が終わった。  結果は一ヶ月後、書面で送られてくる。  それまでやる事はない。  生まれてから十八年、やっと解放された。
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