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高校生になっても、私はやっぱり写真を取り続けていた。
学内でも有名になるくらいには技術も上がっていた。誰もが私の撮った写真を見て感嘆の声を上げる。
私は、それをなんだかとても悲しく思いながら見ていた。まるで、相変わらず私の心に空いていた穴に、寒風が吹き抜けたような気分だったのだ。
そんな時だった。
「どうしたの?」
彼がそう、私に声を掛けてきたのは。
それは、私が学校の花壇に咲いていたダリアの写真を撮っているときだった。
「何が?」
私が聞き返すと、彼は困ったように笑った。
「だって、君、なんだか苦しそうに見えたから」
「くるしそう……?」
私は思いがけない言葉を掛けられ、呆けたように彼の顔をまじまじと見た。彼も眼鏡の奥の目をキョトンとさせ、こちらを見返していた。
そうして見つめ合いながら、私は頭の中で彼の言葉を反芻する。
苦しそう?
……そう、苦しい。写真を撮るのが好きだからこそ、自分の思いも気持ちも入っていない写真を撮るのは。そして何より、その写真を周りから評価されることが、何より苦しかった。悪意の無い攻撃に、一番泣きたかった。
写真の、自分の中身を大事にされていない気がして、悲しかった。
自分の愚かさと鈍さに、乾いた笑いが漏れた。
「ははっ、そうね。苦しい、苦しかったのかも」
自分を皮肉るように、私はダリアに目を向ける。確か、ダリアの花言葉には「裏切り」なんてものが無かったか。まさに私は裏切っていた。自分の心を、それから祖父の言葉を。
──写真は、自分の思いを込めれば込めるほど綺麗になります。
祖父の遺言を思い出す。
ああ、どうして私はこんなにも大事なものを忘れてしまっていたのだろうか。
私は花壇の外にひっそりと咲く、名も知らぬ花の写真をパシャリと撮った。
「素敵な写真だね」
隣で見ていた彼は、そう微笑んでくれて。
私は長く忘れていた、温かくて大切なものが心に戻ってきたような気がした。
だから、彼の纏う空気と写真の花の持つ雰囲気が似ていたことは、きっと偶然ではないのだろう。
その日、家に帰ると、私は久し振りにアルバムを開いた。
ホコリを被って薄汚れていたけれど、私には宝石のような輝きが再び戻ってきて見えた。
そして、その後。アルバムの写真が久し振りに増えた。
それからはずっと、私は大切なものを忘れていない。
アルバムに収められる「綺麗なもの」も続々と増えていった。
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