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そうして、とうとうその日になった。
私は朝からよく分からないまま、ずっとソワソワしていた。
「ちょっと出掛けよう?」
そんな私を見かねてか、昼過ぎ、彼はそう言って私をデートに連れ出した。
やって来たのは、今までも何度も来たことのある大型ショッピングセンターだった。賑わう人の間を抜け、見慣れたお気に入りの店に入っていくつか買い物をする。
そんな風にそれなりに楽しんだ後は、屋上の庭園でお茶をするのが、私達のいつものルーティーンだ。
今日の私達は、気がついたらいつもより遅い時間まで買い物をしていたため、夜闇に輝く月の下、ライトに照らされてどことなく幻想的な庭園で美味しいお菓子に舌鼓を打った。
「月が綺麗ですね」
会話に興じていると、不意に彼がそう言った。
「……?そうね」
私がそう答えると、彼は苦笑した。
「ゆうは本当、鈍いなぁ。まあ、そんなところが可愛いんだけど」
「ど、どうしたのよ、急に──」
私は言いかけて、言葉を止める。やっと、理解したのだ。みるみる内に体温が上がることが分かる。きっと、今、私の顔は真っ赤に染まっていることだろう。
「愛してるよ。結婚しよう、ゆう」
そう言って、彼は小さな宝石の嵌った指輪を取り出した。
その指輪の綺麗なこと。私は言葉を発することもできずに指輪に魅入る。無意識にカメラを構え、写真を撮っていた。
「ねえ、ゆう。返事が欲しいな」
彼がそう言っていつもの微笑みを浮かべる。けど、その頬がいつもより赤く見えるのは、気のせいだろうか。
私はカメラを胸に、左手を差し出した。
「ええ、喜んで。──ずっと月を見ていましょう」
彼の予言は当たった。
アルバムはその日に全てうまり、最高の一枚で締めくくられた。
もちろん、アルバムの最後に入れられた写真では、月の光に照らされた指輪が温かな光を放っている。
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