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彼女の肩が、笑いを含んで小刻みに揺れる。
その度に、そこに顔を埋めている俺も揺れて。同じように刻まれるリズムに、心地が良くて心が震える。
さらに、彼女は小さい子どもをあやすかのように俺の後頭部をゆっくりなぞる。優しい声で「次は、なでなで、かな」と、小さいのに絶大な効果を持った手のひらで、背中に安らぎを流し込む。
……なんだよ、これ。
全然カッコつかないじゃん。
「よしよし」と「なでなで」は俺の方が得意だったはずなのに。
俺のさする手に合わせるように、だんだんと頬を赤くして、その分だけ安心したように身を任せてくれる彼女を見るのが好きなのに。
そう不貞腐れたポーズをとりたくなる俺がいるはずなのに。
カッコつける余裕なんて、もう全然ない。
でも、思い返してみれば、彼女の前で自分を装って、カッコつけれたことなんてなかったと気づく。
彼女の手の熱さを感じる度、溢れ出そうな何かを辛うじて瞼の裏に閉じ込めた。
まっすぐな彼女だから。背けずに歩くと決めた彼女だから。
俺もただ同じように、彼女のとなりを歩きたい。
もっと、もっと、近づきたい。それができる男でいたい。
けれど、何よりも、彼女に素直な俺でありたい。
そして、彼女にも……。
「…………ねえ、深明」
「はい?」
「俺もしたい」
「……?」
「デート、しよ?」
顔を少しだけ横に向けて、すぐ近くにいる彼女を見遣ると、その瞳が大きく煌めいていた。
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