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第三話 潜入捜査官
もうひとつの昔話。
敷島と加賀が決別して三年ほどが過ぎたころ。つまり、いまから七年前の話。
銀矢がまだ幼かった真咲と出会い、真咲が銀矢の前から姿を消すまでの話。
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銀矢が「いきもの係」の捜査官に着任して数年がたったころ、加賀邦臣の名前が疑念とともに浮かび上がってきた。
いきもの係――正しくは、警視庁環境第九係。主な取締事犯は希少動物の密輸だが、そのなかでも銀矢の専門はネコ科の人身取引事犯である。昔からネコ科だけを狙った誘拐や人身取引はあった。しかし近年それが深刻化したり組織犯罪化している。銀矢の仕事は、それらの案件を捜査して摘発することだ。銀矢がどうしてネコ科専門の捜査官に着任したかといえば、彼がひと目でネコ科かそうでないかを見分けることができるからだ。
昔からどういうわけか、目の前の人物が猫に見えることがあった。カメラのフラッシュを焚くように猫の姿がかいま見えたら、その人物はネコ科だ。銀矢自身はネコ科ではない。ネコ科を見分けられる能力など何の役にもたたないと思ったが、こんな任務で活きるとは奇遇なこともあるものだ。
銀矢が加賀邦臣の存在を知ったのは偶然だった。あるとき、銀矢は所在調査依頼――つまり大陸に渡ったまま行方不明になってしまった人物の捜索依頼――の出ているネコ科の男性について、数人に共通点があることに気づいた。大陸で行方不明になっている人物はいずれも、ある製薬会社に所属する研究所で治験に参加していたのである。それは名の知れた外資系の製薬会社で、加賀邦臣はその治験を担当している主任研究員だった。
――かぎりなく黒に近いグレー。
銀矢はさっそく動いた。しかし加賀邦臣にはなかなか近づけない。周辺をあれこれ嗅ぎまわるうち、加賀の元同僚だったという人物に行きあたる。
――敷島森彦。
昨年、街なかに動物病院を開業したばかりの獣医師だという。公にはしていないがネコ科の診療を行っているらしいこともわかった。
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