第三話 仲間たち

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「真咲君、耳標(じひょう)をつけられちゃったんだね。素直だなあ」 「耳標?」 「敷島先生につけられちゃった、このピアスだよ」 「だって……それが入居の条件だって言われたから」 「そんなの嘘に決まってるでしょ」 「えっ」 「あの先生、色男のくせにムッツリだからなぁ。盗聴器とかGPSかもしれないって思わなかったの?」 「……」  絶句する真咲の肩を、丹色が「気にしなくていいよ」とぽんぽん叩く。  紺野はシオンの頭を軽くはたいている。シオンが首をすくめて「暴力反対っ」とわめいた。 「シオン、新入りをいじめるな。盗聴器のわけないだろ」 「たとえばの話だよう」 「……皆さんはピアス、ついてないんですか」  彼らの顔を交互に見る真咲を、丹色が気の毒そうな顔で見る。 「任意だと言われなかった? ピアスをつけなくてもネコ科の研究には協力できるって」 「じゃあ、これは何のために」 「悪用はされないから安心していいよ。治験のしやすさという点では、それがあったほうが楽かもしれない」 「あとは、黒羽の身の安全のためにもな」  紺野が会話に入ってきた。 「敷島先生のことだからGPSぐらいは当然仕込んでるだろ」 「……どういうことですか」 「貴重な研究対象が行方不明になったら困るってことだよ」 「なんだか家畜みたいだ」 「そう、それ! 家畜だよ。だから耳標。ウシとかヤギの耳にピラピラついているアレと同じ」  紺野がパチンと指を鳴らした。真咲はすっかり自分が情けなくなる。安易に合意したことは認めるが、敷島の説明不足に少々腹も立った。 「……これ、外します」  耳たぶのピアスに指をかけて外しかけた真咲を、丹色と紺野が止めた。 「まあまあ、そう早まるなよ」 「気にならないなら、つけておくといいよ。敷島先生も悪い人ではないから」 「そうだぞ。まあ、敷島先生がムッツリなのは確かだけどな」 「鷹志、そういう余計なことは言わない」  浮かない顔をする真咲を、シオンがよしよしと慰める。 「まぁ、いいじゃん。それより、せっかく満室になったんだからさ。真咲君の歓迎会をしようよ。いつ越してくるの?」 「いつから入居可能なのかな。明日……はさすがに急すぎるよね」  真咲は澄々木に向き直って尋ねた。澄々木はそっけなく肩をすくめた。 「いつでもいいよ。今日でもいいし、明日でも」 「じゃあ、明日にするよ」  即答した真咲の顔を見て、シオンが嬉しそうにパチンと手を打った。 「やったね。じゃあ明日の夜、この部屋に全員集合ね!」 第四話「夜這い」につづく
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