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「真咲君、耳標をつけられちゃったんだね。素直だなあ」
「耳標?」
「敷島先生につけられちゃった、このピアスだよ」
「だって……それが入居の条件だって言われたから」
「そんなの嘘に決まってるでしょ」
「えっ」
「あの先生、色男のくせにムッツリだからなぁ。盗聴器とかGPSかもしれないって思わなかったの?」
「……」
絶句する真咲の肩を、丹色が「気にしなくていいよ」とぽんぽん叩く。
紺野はシオンの頭を軽くはたいている。シオンが首をすくめて「暴力反対っ」とわめいた。
「シオン、新入りをいじめるな。盗聴器のわけないだろ」
「たとえばの話だよう」
「……皆さんはピアス、ついてないんですか」
彼らの顔を交互に見る真咲を、丹色が気の毒そうな顔で見る。
「任意だと言われなかった? ピアスをつけなくてもネコ科の研究には協力できるって」
「じゃあ、これは何のために」
「悪用はされないから安心していいよ。治験のしやすさという点では、それがあったほうが楽かもしれない」
「あとは、黒羽の身の安全のためにもな」
紺野が会話に入ってきた。
「敷島先生のことだからGPSぐらいは当然仕込んでるだろ」
「……どういうことですか」
「貴重な研究対象が行方不明になったら困るってことだよ」
「なんだか家畜みたいだ」
「そう、それ! 家畜だよ。だから耳標。ウシとかヤギの耳にピラピラついているアレと同じ」
紺野がパチンと指を鳴らした。真咲はすっかり自分が情けなくなる。安易に合意したことは認めるが、敷島の説明不足に少々腹も立った。
「……これ、外します」
耳たぶのピアスに指をかけて外しかけた真咲を、丹色と紺野が止めた。
「まあまあ、そう早まるなよ」
「気にならないなら、つけておくといいよ。敷島先生も悪い人ではないから」
「そうだぞ。まあ、敷島先生がムッツリなのは確かだけどな」
「鷹志、そういう余計なことは言わない」
浮かない顔をする真咲を、シオンがよしよしと慰める。
「まぁ、いいじゃん。それより、せっかく満室になったんだからさ。真咲君の歓迎会をしようよ。いつ越してくるの?」
「いつから入居可能なのかな。明日……はさすがに急すぎるよね」
真咲は澄々木に向き直って尋ねた。澄々木はそっけなく肩をすくめた。
「いつでもいいよ。今日でもいいし、明日でも」
「じゃあ、明日にするよ」
即答した真咲の顔を見て、シオンが嬉しそうにパチンと手を打った。
「やったね。じゃあ明日の夜、この部屋に全員集合ね!」
第四話「夜這い」につづく
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