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シオンが誘うように膝を開くので、真咲はたまらず彼の後ろに指を差し入れた。想像より柔らかい。やすやすと飲み込まれていく。ここに来る前に準備してきたのだと理解した瞬間、どうにかもちこたえていた理性が脳内から消えた。
真咲はシオンの腰を抱えるようにして一気に身体を沈めた。シオンが小さな叫び声をあげて腰をしならせる。
――こいつ、エロすぎる。
心拍数が上がる。耳のすぐ横で脈動が聞こえるようだ。シオンが「ちょっと、待って、真咲の、大きい」と呟いて、はあっ、はあっと深呼吸する。薄い胸が波打つように上下した。そのたびに、真咲の身体は彼の奥に深く入りこんでいく。たまらなくなってそろりと腰を動かしてみた。シオンがじっと真咲を見上げてくる。縦に細い瞳孔をしたカフェオレ色の大きな目だった。
――俺の目も、こんな猫みたいな目をしているんだろうか。
不思議な感覚だった。思考が澄みわたり、感覚が鋭敏になっていく。真咲を包むシオンの身体があたたかくて気持ちいい。真咲は全身に鳥肌をたてた。
「真咲、噛んでもいいよ」
「えっ」
「噛みたければどうぞ」
「……っ」
先ほどからかろうじて抑えていた衝動をあっさり見透かされて、真咲は軽いいらだちを覚えた。悔しまぎれにシオンの首筋に歯を立てる。思った以上に鋭く食い込む感覚があった。そんなに強く噛んだつもりはなかったのに、薄く張りのある皮膚がぷつりと破れ、舌にじわりと鉄の味が広がった。
――嘘だろ。俺にも牙があるのか。
「ああ、いいね」
シオンがうっとり呟く。彼の首筋から口を離すと、丸く血の玉が盛り上がって滲んだ。真咲はそれを舐めた。シオンの速い鼓動がはっきりと耳元で聞こえるような気がした。音だけではない。吸いつくような肌合い、ほのかな汗の匂い、口の中の血の味、それらがすべて増幅して感じられる。その一方で意識は急速にかすんでいく。
――これがネコ科の……獣身のセックスか。確かにすごく気持ちがいい。病みつきになりそうだ。
夢中で腰を振る真咲の身体の下で、シオンが喘ぐような声を上げた。
「ねえ、真咲、もう、だめ、い……っ」
「俺も」
誰かと肌を合わせて、ここまで没入したことはなかった。耳の奥で脈打つように聞こえるのは自分の鼓動なのか、シオンの鼓動なのか。きつく閉じているはずのまぶたの裏に赤い光を見た。シオンのなかに収まっている身体がギリギリと絞めつけられて、痛いのか快感なのか、もうわからない。しかしどこに向かえばいいのかは明瞭にわかる。真咲はすべての意識をそこに向けた。
――すっげえ気持ちいい。なんだよ、これは。
真咲が達くのと同時に、シオンも達した気配がした。彼の指先がぎりぎりと真咲の肩に食い込む。息を詰めて快感を味わい尽くす。頂点にいる感覚がこんなに長く続いたのも初めてだった。脳がしびれる。
「……真咲、息を吐いて。真咲」
そっと背中をさすられて真咲は我に返る。息をするのを忘れていた。大きく息を吐いたら全身から力が抜けた。肩で息をする。シオンの顔の横についた腕の力を保てなくて、彼の胸のなかに倒れこんだ。やわらかく抱き留められて安堵する。シオンの胸からも速い鼓動が伝わってきた。真咲の緊張が解けるまで、シオンは静かに背中や腕をさすってくれた。
「真咲、すごくよかった」
「……ネコ科って、いつもこんなことしてるのか」
「全員が俺みたいに淫乱なわけじゃないよ」
「そっか。……そうだよな」
「真咲は? 嫌じゃなかった?」
「全然。むしろ俺の中で新しい扉が開いてしまった気がする」
シオンが低い笑い声を漏らす。彼の首筋には真咲の噛み痕が赤く残っていた。血はすでに止まっているが、歯形が痛々しい。それをそっと指で触ってシオンに詫びた。
「……ごめん、甘噛みしたつもりだったのに」
「別にいいよ。気持ちよかったから。ちょっと痛いぐらいが興奮するんだ」
「そうなのか」
「うん」
シオンの喉仏がごくり、と上下した。
真咲は彼の喉にもう一度食らいつきたくなるのをかろうじてこらえた。
――第五話「マタタビ」に続く
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