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「うちは元々仲の良い家族だったと思います。裕福じゃなかったけどその代わり不満もなかったですし、父さんと母さんと俺、三人で慎ましく暮らしてました」
「ほう」
「父さんは厳しい人で、小さい頃はよく悪さをして叱られました。母さんは反対に優しくて、叱られた俺を慰めるのはいつも母さんの役目でした」
青年は遠い日を思い出すように目を細める。
「父さんと母さんは休日のたびに俺をいろんなところへ連れて行ってくれました。だから、学校で友達ができなくても辛いと感じたことは一度もなかった。このまま穏やかな生活がずっと続くのだろうと、その時はそう信じていました」
思わせぶりな口調。わずかに声のトーンを落とした青年の顔には濃い陰ができている。
「二年前、俺が高校に入学した直後でした。一つの転機が訪れたんです」
「転機?」
「父さんが……病気で死んだんです」
「それは、ご愁傷様です」
演技がかった大仰な口調で語る青年に、失礼ながら先程の友達ができなかったという言葉に得心がいった。
本音を言えばすでに辟易としてきたが、これは仕事だ。俺は目で話の続きを促した。
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