目に見えぬ毒のように

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「友人関係に口を出されるのは嫌でしたけど、俺は母さんの言う通りにすることにしました。友人に『旦那さんを亡くして寂しいから、お母さんは君にできるだけ家に居て欲しいんだよ』と言われましたし、俺自身も寂しい気持ちはよく分かりましたから」  なるほどそういう見方もあったか、と俺は頷く。  だが被害者の気持ちへの理解度が高まっても、それがどう最初の話に繋がるのかはまださっぱり分からない。  何はともあれ、もう少し話を聞く必要がありそうだ。彼も最初に長い話になると言っていた。 「母さんに従って、しばらく友人と遊ぶことは控えていました。ですが、母さんの要求は日に日にエスカレートしていったんです」 「ははぁ。どんなふうに?」 「まずは友人と連絡が取れないよう、ケータイを取り上げられました。さらに厳しい門限を設けられて、学校帰りにほんの少し寄り道することすらできなくなりました」 「なるほど」 「そうなるとさすがに俺も抵抗したくなります。そこで一度門限を破ったことがあったんですけど、その日は何も言われなくて、なのに翌日、母さんは授業中の教室に突然怒鳴り込んできたんです。『おたくの教育は一体どうなっているんだ』って」  なるほど、これはなかなか強烈なエピソードだ。青年も十分癖が強いが、母親の方も相当かもしれない。そういう親のことを一般的に何と言うんだったか。
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