目に見えぬ毒のように

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 青年はそう言って目尻を下げた。その表情からは、彼の「友人」に対する絶大な信頼が窺える。 「その後も母さんからの束縛は続き、俺はとうとう高校を自主退学させられました。そして外部との連絡手段が無いまま外出も一切禁じられ、家に閉じ込められてしまったんです」 「なんと……まさかそこまでするとは」 「刑事さん。人を洗脳したいと思った時、まず最初に何をするべきか分かりますか?」  右手人差し指をピンと上に向け、得意顔で青年は言った。唐突な質問に俺が「分からない」と答えると、彼はさらに得意満面になった。 「外部からの接触を全て断ち、相手の頼れる存在が自分しかいない状況を作り上げるんですよ。そうすることで相手は正常な判断力を失い、自分に依存するようになるんです」 「もしかして、それもご友人が?」 「そうです。母さんが俺にしようとしていたことは、まさに洗脳。彼はそのことをいち早く察知し、俺に教えてくれました。『できるだけお母さんの言うことは聞かない方がいい』って」  自慢げにフフンと言う青年に対し、一つの疑問が浮かび上がる。 「ケータイを没収され、外出も禁止されていたんだよね?」 「はい。何度か母さんが居ない間に外出を試みましたが、なぜか毎回バレて、後でこっ酷くなじられました」  なるほど。何かと過激な被害者のことだ、青年の話が嘘でないなら、もしかしたら彼の靴か財布にでもGPSが仕込まれていたかもしれない。  とりあえず、それはまた後で調べることとしよう。 「外出できず連絡手段もないのに、君はさっき、ご友人が洗脳のことを教えてくれたと言った。ご友人とは一体どうやって連絡を?」 「簡単なことですよ。彼の方から家に来てくれたんです」
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