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誠実な霧崎の人柄に、明里はどんどん惹かれていった。正義感の強い霧崎もまた、明里がされた仕打ちに同情し、それでも前を向こうとする彼女を好ましく思った。
相談と称して逢瀬を重ねる内に、二人の気持ちが通じ合うのに時間はかからなかった。
ただし、恋人らしいことは何一つしなかった。これは霧崎の方から言い出したことだった。
最初から離婚の相談をしていたので、明里が忠と別れるつもりであることは承知している。それでも現在は婚姻関係であるのだから、裁判になった時のことを考えて、不利になることはしない方がいい。
「それに、あなたに触れる時は、罪悪感なく堂々と触れたい」
そう言った霧崎に、明里は自分の心をこんなにも理解してもらえるものかと泣きそうになった。
いくら別れるつもりだと言っても、やはり忠は夫なのだ。夫がいる限り、明里は霧崎に触れてもらえたとしても、心の何処かでずっと罪悪感を抱え続けることになるだろう。
忠を愛していた時は、尽くす愛だった。捧げることで相手が喜ぶことを愛だと思っていた。他人同士が完璧に理解し合うことなどできないのだから、妻の方が夫に合わせるのが自然なことだと思い込んでいた。思い込まされていた。
そんなことをしなくても、こんな風に、考え方がかっちりとはまる人がいるなんて、想像もしなかった。
この人と生きていきたいと、初めて強く思った。
霧崎と会う時はいつも開けた人目のある場所で、万が一探偵などを雇われて写真を取られても、問題がない範囲でしか行動しなかった。
それでも、目が。
目を合わせるだけで、自分を好きだと言っていることがわかる。視線の温度だけで、想いを交わせる。
そんな体験は初めてだった。キスもセックスもしないのに、全く不安はなかった。
この人は自分を愛している。お互いの気持ちが通じている幸福感が常にあった。
だから明里も、冷静に忠への対処を考えられた。
未来に不安はない。忠と別れても、自分は生きていける。
明里はなんとか不倫の証拠を掴もうとした。探偵を雇えば金がかかる。最終手段としては選択肢に含めるが、離婚後のために、できるだけ温存しておきたい。
それに、忠の性格を考えれば、探偵を雇うという行為が相当癇に障るだろう。より離婚を渋る原因になりかねない。
そうして模索し続けて、考えついたのがオープンマリッジだった。
結果として、時間はかかったものの、これは上手くいった。
だが肝心の離婚については、忠は拒否し続けている。どうしたものか、と明里は溜息を吐いた。
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