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「みーきーっ!」
繁華街の中心から少し外れた細道にて。
ご機嫌な笑顔で手を振りながら駆け寄ってくる忠に、派手な金髪をくるくると巻いた女性はぎょっとして、きょろきょろと周囲を見回した後、鬼の形相で忠を睨んだ。
その表情に忠が驚いて足を止めると、しっしっと手を払う仕草をして、再び周囲を警戒してから、近くのホテルへ入っていった。
忠はそれを見送って、ぽりぽりと頭をかいて腕時計を見た。
五分、十分。しっかり時間が経ったのを確認して、忠も先ほどの女性と同じホテルに入る。
慣れたように部屋へと向かい、スマホから連絡を入れると、扉が内側から開く。
迎え入れた相手に笑顔を向けて、忠は部屋へと入った。
「で、何なのよ最初のアレ」
一通り楽しんだ後。ベッドに転がったまま、忠の不倫相手――美紀は、半眼でそう問いかけた。
「ああ、そうだ。聞いてくれよ! 俺たち、もうこそこそ会う必要ないんだぜ」
さも喜ばしいことのように告げる忠に、美紀は声を荒げた。
「ちょっと、まさか離婚とかしてないでしょうね!? やめてよ、アタシあんたとは完全に遊びなんだから」
「わーかってるよ。そうじゃなくてさ。嫁が、いくらでも不倫していーって」
「はぁ……?」
胡乱な美紀に、忠はオープンマリッジのことを説明した。
「ふぅん……。ああ、今はそんなのあるんだ。へぇ」
スマホで検索しながら、美紀は呟いた。
「でもそれ、大丈夫なの? 奥さん、本当に納得してるの?」
「向こうから言ってきたんだぜ。それに、ちゃんと契約書だって書いたんだから! 絶対大丈夫だって」
「絶対、ね」
疑わし気な美紀に、忠は不機嫌そうに顔を歪めた。なんだ、てっきり喜んでくれると思ったのに。
気の削がれた忠は、舌打ちして仰向けに転がった。
「まぁとにかくさー。今後は、時間ずらして待ち合わせしたりとか、家や会社から遠い場所で会ったりとか、連絡の履歴逐一消したりとか、そういうことぜーんぶ気にしなくていいわけ。だって嫁公認だからな!」
能天気な忠の言葉に、美紀は溜息を吐いた。
「あのね、あんたはそれで良くても、アタシは良くないんだけど。あんたといるところを知り合いに見られたら、結局アタシの方は不倫してるって叩かれるのよ?」
「えぇー? 言えばいいじゃん、許可取ってるって」
「ばか、そんなのわざわざ説明できるわけないでしょ。そういうのはね、いつの間にか広まってるもんなの」
「あーそう」
煩わしさから解放されると思ったのに、否定的な美紀に忠は不貞腐れた。
結局、美紀とは今後もそれなりに気をつけて会うことになった。
別にいいか。今後は美紀に拘らなくても、誰とでも遊べるのだから。
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