風は吹いていなかった

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私もその辺を見渡してみた。 しかしいくら目を凝らしても誰も見えない。 私はその同行者に、そうではない事を祈って聞いてみた。 「誰かって、もしかして生きてる人じゃない感じ? まさかね……」 「うん? そうだけど……。あの人誰かに気づいた欲しかったみたいだね」 なんてことを普通に言っているその人は、霊の見える人だった。 私が不審な目を向けていたのに気づいたのだろう。 「特に危害を加えたいわけじゃないみたいだから、大丈夫でしょう。きっと」 「そうなんだ……、きっと……ね」 ジーッと見ていると慌てて付け加えた。 「ただ、淋しかったんじゃないかな。まだお墓参りに来てもらってないみたいだったから」 その人は線香も花も供えられていないお墓を見ては、寂しそうに話した。  霊は気付いてくれる人が居ると分かると、その人にアピールするらしい。 そういえばその人は以前、お婆さんの霊に挨拶をされたことがあると話していた。 世の中、知らない方がいいこともあるのだと改めて思った日だった。
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