肩を叩かれたはずなのに

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肩を叩かれたはずなのに

あれは年が明けてすぐのことだった。 昭和感漂う駅から少し離れた場所にあるスナックへ行った。 その店の常連の人と一緒に妙に落ち着くカウンター席で近況報告をしていた時だった。 「いらっしゃいませ」 入り口の扉が開きぴたりと寄り添うように男女2人組入ってきた。 どうやら既にどこかで呑んできたようでやたらハイテンションの2人。 ソファータイプの座席のテーブル席に着くと何やらすぐにガサゴソと始め出した。 「マスター、これ飲みたいからワイングラスある?」 酒を提供する店に平気でスパークリングワインを持ち込みグラスを用意するように店のマスターに強要した女。 「ごめんね、シャンパン用のグラスはないかな……」 「えー、じゃあなんでもいいからお願いね」 新年だからなんでも許されるとでも思っているその女。マスターの言葉の本当の意味を理解できないようだ。 店に許可を得ることもなく勝手に連れの男とワインの栓を抜こうと準備を始めた。  他の客がカラオケを歌っていようがお構いなしにワインの栓を『ポンッ』と音を立てて開けたいようで、それは大騒ぎ。 すると私の連れが変な事を言い出した。 「あの女の人、旦那さんいるんだよ。俺も前声かけられた」 「はっ?」 私はこの人は何を言っているのだろうか、と言う目で隣を見た。 「ライン聞かれたけどやってないって嘘ついちゃった」 一連の流れで一瞬酔いが冷めた私はまじまじとその彼の顔を見た。 彼はそのまま続きを話す。 「俺が相手にしないって分かったら、今度は『他の男紹介しろ』って言ってきたんだよ。断ったけど」 「今一緒にいる人は旦那さんじゃないの?」 「旦那は別の人。少し前に旦那とも一緒に来てたから」 現実世界にも昼ドラみたいな人が居たことに唖然とする私。 しかもその女、この近くに住んでいるらしい。 普通(?)の神経をしていたら旦那と来るような店に他の男と来ないんじゃないだろうか。 それとも男漁りは旦那公認の行為なのだろうか。 もしかしてお互い様とか……、とくだらない想像が一瞬にして頭の中を駆け巡った。 しかし、その女のことを知りたくもないのでこれ以上は深掘りはしないことにした。
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