名所

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名所

 どういう訳なのか、同じような人達を呼ぶ場所がある。  個人事業主として働く知人は、 駅から歩くと40分程離れた場所に住んでいる。 知人が日々過ごすのは自宅兼職場のその場所。 自宅の1室を職場にしている。 通勤で満員電車には乗った事が無いという。 日々混雑する電車に乗る身としては羨ましい限りである。 だから知人の普段の交通手段は自家用車。 余程の事が無い限り、電車に乗ることはない。  そんな知人が子供を連れて駅の近くまで出かけた時のこと。 のんびりと長閑な雰囲気の場所で子供と一緒に電車が通るのを眺めていた。 なぜかそこは、駅から少し離れただけなのに人通りが少ない場所だったという。 それになぜか車の行き交う数も少ない。 隣の駅までは高架になっているのになぜかそこから先は工事が進んでいない。 用地買収が難しいことだけではないようだ。 知人は少しその長閑さを楽しんでから家に帰った。 子供と「楽しかったね」と言って。  数日後、その知人の所にきた人と話をした時のこと。 どうやらその場所は、電車へ飛び込む名所だという。 その地域の人には有名な場所だとか。  それを聞いた知人。 「長閑でのんびりしてて、いい景色だなと思ったのに、そんな場所だなんて……」 怖がる様子は無かったが、なぜか不思議そうにしていた。    長い独身時代を経て結婚したその知人。 その人は今が1番幸せだと言っていた。 そんな人には、曰く因縁付きの場所の力は及ばないのだろうか。 幸せは人と比べるものではない。 自分自身が決めること。
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