実はそれだけではなかった

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実はそれだけではなかった

 母の葬儀の時。 この世を去ってもまだ、勝手気ままな父が心配な母は 喪主の挨拶の時に父の隣に並び一緒に頭を下げていた。 それを教えてくれたのは霊の姿が見える親族。 以前、この話はここで終わっていたのだが、実は最近その前後の話を教えてもらった。  母が亡くなってもう、10年程になるだろうか。 久し振りに、あの時父の隣にいる母の霊を見た親族に会った。 子供たちも大きくなったね、などと話していた時だった。 そう言えば、とその親族が思い出したかのように話し出した。  棺桶の中に白装束で横たわっている肉体から離れた霊。 それは比較的自由に斎場の中を移動していたと言う。 葬儀が始まり親族のお焼香が済んだ辺りだっただろうか。 孫2人が堪えきれずにとうとう泣き出してしまった。 その姿を見た大人たちも釣られて涙を流していた。 すると、霊になった母はどこからともなく孫の近くに現れたのだそうだ。 そして孫の顔を心配そうに覗き込んでいたのだという。  その後も広い葬儀会場の中をフラフラと漂っていたと言われた。 最後には1番心配な父の隣に並び、 会場中の多くの人に一緒に頭を下げていたと言うのだ。 生前、ホラー系推理小説などが好きだった母はこんなことを言っていた。 『お化けがいるなら、会ってみたいわ』と。 その話を霊の見える親戚にしてみた。 すると返事はこうだった。 「きっと、そんな人のところには現れないだろうね」 同感だった。 それは『決して1人では見ないでください』とプロモーションしていた映画を 嬉々として1人で見るような人のところには、きっと霊も現れないのだろうなと思ったから。 肉体の寿命を迎え、自らがそちら側の存在になった母。 彼女は一体どんな気持ちだったのだろうか。
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