真夜中のタクシー

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真夜中のタクシー

 知人と時間を忘れて楽しく飲んでいてつい終電を逃してしまったある日。 睡魔に負けそうになった私は店のマスターにタクシーを呼んでもらって帰ることにした。 タクシーの後部座席に乗り込み行き先を告げると荷物を横に置いてシートベルトをした。 酔っ払っていてもシートベルトくらいは出来るが少しウトウトしながらも寝てしまわないようにスマホを手にした。 安全運転のタクシーは無事に自宅近くまで走ってくれた。 真夜中の道路は人気もなく静まりかえっている。 「次の信号を過ぎたら、適当なところで止まって下さい」 そういうと運転手は病院の向かい路肩に止まった。 料金を支払いレシートを受け取って運転手に礼を言いタクシーを降りた。 すると、タクシー乗り場でもないその場所に何故か知らない女の人が立っていた。 その場所は横断歩道から10mほど離れた新築アパートの前だった。 女の人は私が降りた後スーッと動いて車内を覗き込むと、タクシーの運転手に向かってこんなことを言い出した。 「次、いいですか?」 運転手が何か言っていたのは聞こえたのだが、驚いていた私は足早にその場を離れた。 歩いていると隣をそのタクシーが来た方向とは逆の方へと走って行った。 先程の女性が気になり振り返っても誰もそこには居なかった。 ゾッとして小走りで家まで向かい玄関の鍵を開けて素早く入った。  そしてすぐに鍵を閉めて靴を脱いだ。
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