真夜中のタクシー

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 私がタクシーに乗ったのは、ある繁華街。 行き先は違う営業エリアになる隣街だった。 通常タクシーは営業エリア外に出た場合そこで客を乗せることは出来ない。 しかし営業エリア外で客の運送を終えた後、所属元の営業エリア内に戻るのであれば客を乗せることができる。  ほろ酔いの私でも営業エリア外で客を乗せることができないことは頭のどこかにあった。 だからあの場で客など乗せられるはずがないと思ったのだ。  あの時うっすら聞こえてきた運転手の言葉。 「すみません、お乗せすることは……」 すぐ車から離れてしまったこともあり、その後何を話していたのか想像することしかできないから真実は分からない。 もしかしたら女の人は万が一の可能性でそのまま乗って繁華街のあの街まで戻ったのかもしれない。 加えて真夜中なのに広さのある道路をその場でUターンしなかったタクシーは来た方向とは逆方向に走って行ったが、きっとどこかで曲がって営業所のある場所へ向かったのだろう。  しかし、真夜中に偶然走っているタクシーなどほとんどいない時間に『次、いいですか?』なんてどこで止まるか分からないタクシーを待っている人。 そんなものに遭遇したのは初めての出来事だった。 二度目は遠慮したいものである。
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