柏手

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柏手

 どこで聞いたのかはもう忘れた言葉。 『ラップ音がしたら柏手(カシワデ)を打ちましょう』という言葉をふと思い出した。 それは確か柏手には魔や邪を払う力があるからだと説明されていた。 それは以前アルバイトをしていたオイルマッサージのサロンで起きたことだった。 オイルマッサージと言ってもアーユルヴェーダと言われるインド式のもので色気などは皆無のお店。お客様は主に子育てをひと段落した奥様方だった。  その日は早番で開店準備のために鍵を預かっていたため少し早めに店に入った。 準備を始める前にまずローカールームで着替えていると、急に部屋中に響き渡るような大きな音がした。 「パンッ」 1回音がした。 まるで柏手を打ったようなその音に驚いて辺りを見回しても誰もいない。 時間はまだ午前9時30分をまわったばかり。 こんな早い時間から心霊現象があるとも思え無かった私は、今し方出社してきた年配のアルバイトさんに今あったことを話した。 しかし、まともに取り合ってもらえない。 それどころかこんなことを言う始末。 「柏手は縁起がいいからいいんじゃない。そんなに気にすることないわよ」 あっけらかんとなんでもない事のように言われても気味の悪さは残るのだ。  その後、忙しさで気が紛れたのか特にその場の空気が重いとも感じられなかった。 忙しくてそんなことを考える暇もなくなったことは不幸中の幸いだったのか。  その後その店で心霊現象や他に変な事が起こることはなかった。 しかし、そのお店とはあまり縁がなかったようですぐに勤務は終了した。
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