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来た道を道なりに歩いて行くと隣にはそこに沿うように川が流れていた。
場所によっては緑が生い茂り車の通りも少ない道だった。周りに何も無いから他に人の姿があると結構目につくのだ。
ふと川の流れる右側を見ると赤い橋があった。その向こう側にはひっそりと赤い祠があった。
若いカップルが二人で戯れていたのを見てAさんが言った。
「あっちにこうよ」
それに対して私はどう言うわけだかどうしてもその橋を渡りたくないし、川の向こう側にも行きたくなかった。
「イヤだ、行きたくない」
「えー……行こうよ、あっちに人もいるから大丈夫だよ」
お調子者のAさんはどうしても橋を渡りたいらしい。
それでも私はどうしてもそこに近づくのが嫌だった。
「なんか嫌だから行きたくない」
私が不機嫌に発した一言でその後一悶着。
結局そこには行かないことになった。
普段は譲ることの多い私が絶対に譲らないことを不思議に思ったのか、ただAさんの興味が逸れただけなのか。
どうやらAさんは少し古びたその橋を渡ることを私が怖がっていると思ったらしい。
実際はそうではなく、ただただそこに行きたく無いだけだったのだが。
なぜ行きたくなかったのかというと、その時の私には一応私なりの理由があった。
まだ昼間だと言うのに橋の向こう側の祠の辺りだけ空気が違うと言うのかやけに重苦しい感じがして、なんとも言えない奇妙な感じを受けた。
シールドとか結界とか、そんな何かが見えるわけではないのに、それがあるような気がしたのは気のせいではないと思う。
こう、足を踏み入れてはいけない感をヒシヒシと感じたのだから。
そんな事があっても、特に喧嘩をすることもなく駅まで歩き電車に乗って無事家まで帰った。
まあその理由の一つはAさんが優しい人だと言うこと。
もう一つは、私が以前『あっちの道は行きたくない』と言って別の道にした時のこと。
実はあっちの道沿いの家が殺人事件の現場だったことがあった、と言うあまりうれしくない理由があったからでもある。
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