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胸の痛み
生前、母はこんなことを言っていた。
『幽霊が居るなら見てみたいわよ』
横溝正史の小説をこの上なく愛していた母は、2年ほどの闘病の末病院で息を引き取った。
「そろそろ危ないかもしれない」
病院にいる父から連絡が入った。
いつでも出られるように待機していた弟と病院へ向かって歩いていると突然胸が痛み出した。
立っていられないほどの痛みにその場に蹲った私。
少しすると辛うじて出せた声で少し先を歩いていた弟に声をかけた。
先に病院へ行くようにと。
暫く休むと痛みは治まり病院へ向かう事ができた。
私が病室に着くとそれを待っていたかのように医師から母の臨終が伝えられた。
しかし本当は少し前に息を引き取ったのだが家族が揃うまで待っていたと言うのだ。
それを聞いて先程の痛みに合点が入った。
あの痛みはどうやら母からの知らせだったようだ。
どうせ知らせるなら私ではなくて最愛の息子である弟にしてくれたらよかったのに、と薄情な私は思った。
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