風は吹いていなかった

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風は吹いていなかった

 あれはもう彼此10年ほど前になるだろうか。 お盆にお墓参りに行った時のこと。    その日は朝から夏真っ盛り。 お寺の隣に隣接する家屋には風鈴が吊るしてある。 いつもならその風鈴が涼しげな音色を奏でるはずなのにそれは聞こえない。 聞こえて来るのは余計に暑さを感じる蝉の鳴き声だけ。 ジリジリ暑いだけの無風状態の蒸し暑い日だった。 先祖代々の墓のあるその寺は400年以上の歴史を持つと言われている。 故にかなり歴史を感じさせるお墓も存在する。  午後2時ごろの1番暑い時間に墓参りをしたのは、夜の気配がする前にその場を立ち去りたかったからだった。 墓参りを済ませた後、丁度水場に桶を置いた時だった。 急に墓場を吹き抜けるような突風が吹いた。 少し離れた場所にある墓の塔婆がガラガラと音を立てて今にも倒れそうになっていた。 しかし、自分が立っている近くにある墓場の塔婆は全く動いた気配はなかった。 この辺りは近くに山や海があるわけではない。 一体どこからその風は来たのだろうか。 ジリジリとした暑さの中で動けずにいると、一緒に来た者がこんなことを言い出した。 「今、誰かがお墓の中を通って行ったよ、あっちのお墓の方に。背が高めの男の人だった感じかな」 そう言って少し奥の方を見ていた。
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