木之本風太−1−

2/3
前へ
/9ページ
次へ
俺の恋人、桜井千紘とは今から7年ほど前に大学で出会った。 同じサークルに入っていた同級生で、第一印象は「やたらキラキラしたやつ」だった。 背が高く、顔も腹立つぐらい整っていて、陰で「王子」なんて呼ばれていた。女子からもしょっちゅうキャーキャー言われていたし、ザ・一軍男子って感じのやつだった。 そんなやつとごくごく平凡な俺がなぜ付き合うことになったかと言うと、それは正直なところよくわからない。 なんか知らないが初めて会った時から向こうからやたらと話しかけられて、友達になって、一緒に遊ぶようになって、ある日突然告白された。 いくらでも女に困らないだろうやつがなんで男の俺に…と思ったが、気付いたらOKの返事をしていた。 それからの大学生活は常に千紘と一緒に過ごし、4年の時には「卒業したら一緒に住もう」という話になって2人で部屋を探した。 そして一緒に暮らしはじめて3年が過ぎた頃、俺は事故に遭って死んだ、というわけである。 自分では今までの人生に大して後悔なんて持っていないつもりだったが、こうして幽霊になってしまったということは、この世に未練があったのだろうか。 まぁまだ25歳だしな。こんな若いうちに突然死んだらやっぱ化けて出ちゃうよな。 それにしても、これからどうしよう。 幽霊になってしまったなら成仏するのが一番だろうと思うが、成仏ってどうやったらできるのか? よく聞く話だと、幽霊はだいたい自分が死んだことに気付いていなくて、気付いた時に成仏するとか言うけど、俺は自分が幽霊だとはっきり自覚している。 それなら自分でお寺とかに行けばいいのか?そもそも俺はこの家から出られるんだろうか? そう考えて玄関へ行き外に出ようとしてみたが、あと一歩で外に出るというところで突然足が動かなくなった。後ろには動くけど前にはどれだけ動かそうとしてみてもダメで、一歩も外に足を踏み出せなかった。 どうやら俺はここから出られないらしい。 この家に縛られている地縛霊ってやつになってしまったのか。 それじゃあもしヒロがここから引っ越して、その時に成仏できてなかったら俺はこの家に1人で留まり続けるということになるのか? その後にやってくるであろう新しい家主と共同生活とか。 うわ~やだやだ。もしそうなったらもうその人を毎日怖がらせて暇潰しするしかないじゃん。この家をワケアリ物件にしてしまうことになる。そんなことにはなりたくない。 じゃあどうするか。どうにかして俺の未練を解消する? 俺がこの世に残した未練と言えば、考えられるのは残していってしまった恋人のことしかない。 千紘は…ヒロは俺のことが見えるだろうか。わかってくれるだろうか。 もし怖がられたりしたらけっこうつらいな。あいつホラー苦手なんだよな。 やべ、そういえば俺の見た目どうなってんだろ。 事故に遭った時のままとかだとたぶん相当惨いことになってるぞ。俺の姿って鏡に写るのかな? 自分の姿を確認するために、洗面所へ行く。 鏡の前に立つと、ちゃんと俺の姿を写してくれた。 良かった、普通だ。これならもしヒロが俺のこと見えても怖がられない…はず。 とりあえず…今はこの家には誰もいないようだから、ヒロが帰ってくるまで待つか。外は暗いから、今は夜だ。多分近いうちに帰ってくるだろう。 ヒロがちゃんと俺のこと見えますように…
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加